<荒井幸博のシネマつれづれ> 「ブタがいた教室」
11月1日公開の「ブタがいた教室」は待望のディスカッション・ドラマ。
「食」 「命」 「教育」 がテーマ
ブタを飼って食べる!?
新年度が始まり、6年生を担任する新任教師・星は教室に子ブタを連れてくる。子どもたちは愛嬌ある子ブタにはしゃぐが、「この子ブタをクラスで飼い育て、1年後にみんなで食べよう」という星の提案に驚きたじろぐ。
食べるか否かの結論は先送りし、Pちゃんと名づけた子ブタを飼うことに。校庭の片隅に小屋を建て、飼育にあたる子どもたち。一部の保護者の反対も子どもたちの熱意に押し切られる。

食べるか否かで激論
だが卒業が近づき、結論を出さざるを得ない時期がくる。26人の子どもたちはPちゃんを「食べる」「食べない」で激論を交わす。Pちゃんを可愛いと思い、大好きなのはみんな一緒だ。
互いに自説を主張していくうちに涙が溢れ出す。それでも双方譲らず、議論は「食べる」「食べない」から「命」そのものへと発展。私は圧倒されつつもスクリーンに引き込まれ、いつの間にか自分の想いを重ね合わせ、一緒に涙していた。
大阪であった実話
これは90年に大阪の小学校であった実話で、この模様を追いかけたドキュメンタリー番組が93年にテレビ放映されるや賛否両論を巻き起こした。本作のメガホンを執った前田哲監督は番組を観たときから映画化を熱望し、実現にこぎつけた。
クラスの討論の場面ではカメラ7台で撮影。子どもたちに渡した台本に結末は書いていない。子どもたちの必死の訴えは子役としてではなく、等身大の自分。この場面はまさにドキュメンタリー。「食」「命」「教育」を考えるうえで、これほど説得力のある映画はないのではないか。
妻夫木聡が好演
星先生を演じるのは妻夫木聡。子どもたちとPちゃんを見つめる優しくも厳しい眼差しの素晴らしさは、彼自身の内面からにじみ出るものなのだろう。

前田監督、芸工大で教鞭
命が軽んじられる現在、「想像力」の欠如が甚(はなは)だしい。相手の痛みを自分のものとして感じられるかどうかは想像力で、それを養うのは教育者や映画人(クリエーター)であるわれわれの責任、と前田監督は語る。
その前田監督が来年4月から東北芸術工科大学に開設される映像学科で教鞭をとる。頼もしい限りだ。