<荒井幸博のシネマつれづれ> 大綱引の恋

2021年6月11日
社会派・佐々部監督の遺作

 2002年に「陽はまた昇る」でデビュー、以後「チルソクの夏」「半落ち」「ツレがうつになりまして。」「八重子のハミング」など社会派で良質な映画を世に送り続け、20年3月31日に心疾患のため62歳で急逝した佐々部清監督の遺作が本作。
 舞台は鹿児島県薩摩川内市。420年続く勇壮な川内大綱引に青春をかける鳶の跡取りと韓国人女性研修医の切ない恋を軸に、2人を取り巻く家族模様が描かれる。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 大綱引の恋

 何事にも中途半端な35歳独身の武志(三浦貴大)は、鳶の親方で大綱引の師匠でもある父(西田聖志郎)から「早く嫁をもらって後継ぎになれ」とうるさく言われている。
 そんなある日、ふとした事件から武志は韓国人女性研修医ジヒョン(元KARAの知英)と知り合い、心を通わせるようになる。武志の一世一代の晴れ舞台、川内大綱引が迫る中、武志はジヒョンから2週間後に帰国 すると告げられる――。
 出演者は、還暦を機に女将も家事も放棄する母親役の石野真子の他、升毅、比嘉愛未、松本若菜、金児憲史、朝加真由美などが脇を固める。

 亡くなった佐々部監督とは、16年に「八重子のハミング」の試写会場で初めてお会いした。私が当時担当していたNHK仙台放送局「ひるはぴ」に出演を依頼したところ快諾してくださった。
 当日は主演の升毅さんとご一緒に仙台まで足を運んでくれ、番組に出演をいただいた。他のマスコミの取材は一切受けず、東京にとんぼ返りする男気に感激した。
 同い年という互いの親近感もあり、その後もFM山形「シネマアライヴ」にご出演いただいたり、震災後の岩手を舞台にした映画の構想を訊かせてもらったりした。
 本作を完成させた後、故郷・山口県を舞台にした次作の準備に取り掛かった矢先で、まだまだ映画製作に意欲を燃やしていたと聞く。

 ラストの大綱引の場面は圧巻で、佐々部監督の野太く力強い掛け声が聞こえてくるようだった。


<荒井幸博のシネマつれづれ> 大綱引の恋
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。