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2011年6月10日
若者の蹉跌(さてつ)描く実話

 全共闘や新左翼の学生が東大本郷キャンパスを不法占拠、これに対して機動隊が1969年1月18〜19日に封鎖解除を行った東大安田講堂事件。この攻防戦で学生側が鎮圧されたことから全共闘運動は下火になるが、本作はこの安田講堂の陥落から始まる。

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若手記者に忍び寄る罠

 週刊誌の若手記者・沢田は、全共闘運動に共感しながらも安田講堂事件を傍観(ぼうかん)していたことに罪悪感を抱いていた。そんな沢田に2年後、梅山という学生が接触してきて武装蜂起の計画を告げる。最初は梅山をいぶかしがっていた沢田だが、自分と同じように米ロックバンドのCCRや宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」が好きだと知り、次第に親近感を強めていく——。 

原作者の実体験に基づく

 原作者は映画評論家の川本三郎で朝日ジャーナル記者時代の実体験を元にした敗北・挫折の物語。主演の妻夫木聡が正義感やジャーナリストとしての使命感、功名心などを抱きつつも徹底できない沢田を好演している。
 一見ひたむきで、それでいて胡散(うさん)くさい梅山を演じる松山ケンイチは「周りにもこんな奴いるよなあ」と思わせてくれるほどのハマリ役。 

懐かしの米ニューシネマ

 当時の世相を反映し、アメリカン・ニューシネマの「真夜中のカーボーイ」「ファイブ・イージー・ピーセス」が効果的に登場。一方で邦楽では「恋の季節」が流れるが、60年安保時の「アカシアの雨がやむとき」のようにフィットしないと感じるのは筆者だけか。

CCR「雨を見たかい」

 本作ではCCR「雨を見たかい」は反戦歌とされ、筆者もそう思っていたが、最近になってバンド解散の危機を唄っていると知った。CCRには別の反戦歌があり、日本にだけ「雨を見たかい」が反戦歌として伝わったそうです。


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荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマ・パーソナリティーとして数多くの地元メディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。