<荒井幸博のシネマつれづれ> 太平洋の奇跡—フォックスと呼ばれた男—

2011年2月25日
敵も称賛した日本軍人

 太平洋戦争末期の1944年、日本統治下の軍事拠点・サイパン島に圧倒的な軍事力を持つ米軍が上陸してくる。
 
少数で米大軍を翻弄

 「生きて虜囚(りょしゅう)の辱(はずかし)めを受けず」と洗脳されている民間人は崖から次々と飛び降りて自殺、そして日本兵は玉砕(ぎょくさい)していく。
 地獄絵図さながらの惨状下、わずか47人で敵に立ち向かい、多くの民間人を守りながら仲間の兵士達と最後まで生き抜こうとした日本人がいた。翻弄(ほんろう)されっ放しの米兵たち、いつしかこの日本人を畏敬(いけい)を込めて「フォックス」と呼び始めた。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 太平洋の奇跡—フォックスと呼ばれた男—

大場大尉は実在の人物

 フォックスこと大場栄大尉は実在の人物。映画の原作本「タッボーチョ『敵ながら天晴(あっぱれ)』大場隊の勇戦512日」の著者D・ジョーンズ氏は大場大尉と戦った米兵。
 戦後20年を経た65年、ジョーンズ氏が大場さんに初めて電話を入れ、そこから毎年のように訪日し友情を結ぶようになって82年に出版されたのが原作本だった。
 
竹野内豊がハマリ役

 大場大尉を演じる竹野内豊は3年前、鶴岡市出身の冨樫森監督作品「あの空をおぼえてる」に主演、幼い娘を不慮の事故で亡くし、その悲しみから立ち直れないでいる父親を演じた。撮影現場でインタビューさせてもらったが、独身の彼から「娘を亡くす悲しみ」を逆取材され、その真摯で誠実な人間性に感服させられた。
 その横溢(おういつ)する人間性は本作の撮影前のエピソードにも現れている。サイパン島に足を運び、犠牲者の霊を弔(とむら)ったとか。その竹野内演じる大場大尉の奮闘は感動を呼び起こさずにはいられない。
 
かつての軍人像は…

 祖国や、愛する人を守るため死んでいく軍人を描いた映画は数多い。死ぬのはたやすいなどどは決して思わないが、同胞を生かすために最後まで孤軍奮闘した軍人がいたことも知ってほしい。


<荒井幸博のシネマつれづれ> 太平洋の奇跡—フォックスと呼ばれた男—
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマ・パーソナリティーとして数多くの地元メディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。