<荒井幸博のシネマつれづれ> RAILWAYS

2010年6月11日
五十男のひたむきさ描く

 大手家電メーカーに勤める筒井肇は50歳を目前にして取締役就任を控えていた。

これまでの人生とは?

 その関門として専務から工場閉鎖とリストラの断行を迫られる。工場長は同期で親友の川平。彼は昔と変わらずモノづくりへの夢を熱く語るのだった。そんな時、故郷(島根)で1人暮らしをしている母親が倒れたとの知らせ。妻子を伴い故郷に急行するが、仕事一筋だった筒井と妻子の心はかけ離れ、悪性腫瘍(しゅよう)に侵された母親の余命は限られていた。そして川平の死。
 目前のことに追われるだけの日々を送ってきた自分は、出世は手にしたが、やりたいことをやってきたのだろうか。

<荒井幸博のシネマつれづれ> RAILWAYS

夢への挑戦を決意
 
 あることをきっかけに自分の子どものころからの夢が甦(よみがえ)る。それは明治44年創業という島根県東部を走る一畑電車、通称「バタデン」の運転士になることだった。筒井は迷うことなく会社に辞表を提出し、一畑電車運転士の採用試験を受ける。

中井貴一が好演

 主演は中井貴一。彼はデビュー間もないころ共演した小林桂樹から「君はお父さん(佐田啓二)のような二枚目じゃないが、普通のサラリーマンを演じることができる。職業男子の大半を占めるサラリーマンを演じられるのが俳優としての王道」と激励されたとか。実際、サラリーマンも運転士も堂に入っている。
 どちらもワイシャツにネクタイ姿だが、前者の非情なエリートぶりと、本来の自分を取り戻した後者の人間味豊かな様は表情、話し方ともに大きく異なるが、見事に演じ分けていた。 
 
鉄道ファンも必見!

 「幸せとは?」「人生とは?」を自分に重ね合わせて考えざるをえない映画だ。また登場する電車「デハニ50形」は昭和3年製造の日本最古級の電車とか。鉄道ファンも必見です。


<荒井幸博のシネマつれづれ> RAILWAYS
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマ・パーソナリティーとして数多くの地元メディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。