<荒井幸博のシネマつれづれ> 孤高のメス

2010年5月28日
「あがすけ」外科医が主人公
 「あがすけ」とは主に村山地方で「目立ちたがり屋」「生意気なヤツ」を意味する方言。言われる人は周囲の意見に左右されず信念を貫こうとする傾向があり、言う側のある種の羨望(せんぼう)が込められている表現だ。6月5日公開の「孤高のメス」の主人公はそんな「あがすけ」と言える。
<荒井幸博のシネマつれづれ> 孤高のメス

医師不足の病院が舞台

 舞台は医師不足に悩む地方の市民病院。大学病院から派遣される医師たちはここを出世の踏み台にしか考えず、ミスを恐れて難手術には取り組もうとしない。そこに外科医の当麻鉄彦(堤真一)が赴任してくる。
 「目の前で苦しんでいる患者を救うのが外科医の役目」との信念のもと次々と難手術をこなし、患者の命を救っていく当麻。従来の腐った空気に浸かりきっていた若手医師や看護師も次第に当麻に感化されていく。
 ある日、当麻の理解者だった市長が倒れる。命を救うには禁じ手の脳死肝移植しかない。同時期に交通事故で脳死状態に陥った少年の母親から臓器移植の申し出を受け、当麻は意を決する——。
 
医療現場の問題点えぐる
 
 原作は現役医師の大鐘稔彦。医療現場の問題点を鋭くえぐった作品。当麻は大学病院から派遣された医師たちに「あがすけ」扱いされる。捏造(ねつぞう)した事実を陰で流布(るふ)する野本(生瀬勝久)の姑息さは身近な誰かがカブりませんか?
 完璧で近寄りがたい存在の当麻が緊迫した手術のBGMに好んで流す曲が都はるみ、というのも親近感がわく。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 孤高のメス
祝・鶴岡まちなかキネマ

 余談だが22日に「鶴岡まちなかキネマ」がオープンした。「あがすけ」は庄内では使わないが、羨望されるような「あがすけな映画館」になって欲しい。


<荒井幸博のシネマつれづれ> 孤高のメス
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマ・パーソナリティーとして数多くの地元メディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。