もう怖くない認知症/「感動療法」のススメ(1)
感動が認知症を救う!?
素晴らしい映画を観たり、涙あふれる物語を読んだりした後に津波のような「感動」におそわれ、体がしびれるような感じになった経験はありませんか。
実はこの「感動」が認知症の患者さんの様々な症状を改善することがわかってきているのです。私たちは「こころの活性化をはかる感動療法」としてこのことを学会や論文に報告しています。
具体的にはデイケアに通っている認知症の患者さん数名に集まってもらい、退職した高校の国語の先生を専任講師としてひとつの教室のような空間を設定しています。

デイケアで体験学習
ここでは懐かしい思い出につながるような物語を先生が選んで情感を込めて読みあげ、認知症の患者さんが一緒に拾い読みします。すると患者さんの方から「そういえばあんなことがあったね」「あの時はこうだったんだよ」という自発的な会話が始まり、その感動の余韻が残っているうちに懐かしい唱歌をアカペラ(無伴奏)でみんなで口ずさんだりします。
「本当に楽しかった」と感激する患者さんの認知機能を追跡して調査してみると、驚くべきことに明らかな改善が見られるのです。
「脳トレ」は限界?
ひところ脳のトレーニング、いわゆる「脳トレ」という言葉が流行しましたが、認知症の患者さんにやみくもに大脳の新皮質を刺激するより、「感動」を左右する大脳辺縁系を刺激した方が効果的というのが私たちの考えです。そしてこのことは認知症の予防についても同様だと思います。

秋田県能代市生まれ。1983年弘前大学医学部卒業。山形県立河北病院などに勤務後、99年に医療法人東北医療福祉会理事長。日本老年医学会、日本認知症ケア学会に所属。東北大学医学部臨床教授も務める。