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セピア色の風景帖

《セピア色の風景帖》第168回 玉石橋(たまいしはし)(朝日町)

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 朝日町の県道白滝宮宿線を朝日連峰の山小屋「朝日鉱泉ナチュラリストの家」を目指してたどっていくと、心もとないほど歪んだ高欄を備えた細い橋が現れる。通過する分には何のことはない古びた橋だが、「何故ここにこんなものが」と思わせられる変わった造りになっている。

《セピア色の風景帖》第168回 玉石橋(たまいしはし)(朝日町)

 高欄を兼ねるガードレールは石碑を載せた石積みに続いている。石碑には橋の来歴や発注が秋田営林局であることなど書き込まれているが、欠けや変色があって若干読みにくい。それでもこんな山中の橋に石に刻んだ情報板を残すとはただならぬ扱いである。
 竣功は戦前の昭和14年。制限重量は6トンと刻まれているが、上流にある木川ダムの建設時には制限をはるかに越える建材を満載したトラックが行き交ったはずである。

《セピア色の風景帖》第168回 玉石橋(たまいしはし)(朝日町)

 橋の全体像を把握するため藪の中を縫って河床に降りてみる。石材によるものと思われた橋を河床から観察すると、コンクリートアーチ橋であることが分かる。一部の石灰分が溶出して幾本もの鍾乳石となって垂れ下がっており、その古さがうかがえる。
 コンクリートを覆っている石材は角の丸まった河原石で、構造材ではないことは明らかである。疑問点は、なぜ誰も目にすることのないようなこの橋を、コストがかかるこのような玉石で装飾したかということである。
 建造された当初は車でドライブする一般人もなく、この深い山を訪れるのは営林関係の人くらいであっただろう。

《セピア色の風景帖》第168回 玉石橋(たまいしはし)(朝日町)

 けれども橋の威容を見ているうちにそんなことはどうでもよくなってくる。鑑賞用とも言える美しい橋なのである。(F)

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