<荒井幸博のシネマつれづれ> ノマドランド

2021年4月23日
自由を謳歌する放浪

 60代女性のファーンはリーマンショックのあおりで住み慣れた家を失い、キャンピングカーに亡き夫との思い出など人生の全てを詰め込んで現代のノマド(放浪の民)として車上生活を送りはじめる。
 日雇い労働をしながら毎日を懸命に生きるファーン。行く先々で出会うノマドたちと交流を重ねていくうちに、孤独、貧困、将来の不安などを克服し、何者にも寄らない独立の自由を謳歌できることに誇りをもって旅を続けるのだった。

<荒井幸博のシネマつれづれ> ノマドランド

 ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を「ザ・ライダー」でメガホンをとった中国系女性クロエ・ジャオ監督が映画化したのが本作。 現在、アメリカでは年金だけでは生活をしていけず、ノマドとしてキャンピングカーやバンで生活し、季節ごとに働き場所を求めて移動する高齢者が増えているという。     
 プロの俳優はファーンを演じたフランシス・マクドーマンドと、ファーンに想いを寄せるデイブ役のデヴィッド・ストラザーンだけで、2人以外は実際のノマドを含む演技素人というから驚く。
 しかも彼らが発する言葉は台本ありきではなく、自分の心の内から出たとしか思えない。ジャオ監督がどのような演出をしたのかが興味深い。
 ロードムービーでもあるのでアメリカの雄大な自然の風景を心行くまで満喫できるのも嬉しい。特に各所の夕景には其々感動を覚える。これは映画館のスクリーンでこそ観て欲しい作品。

 本作はヴェネチア国際映画祭金獅子賞をはじめ各国の映画賞を軒並み受賞しており、アカデミー賞の前哨戦と言われるゴールデングローブ賞でも作品と監督の2部門で受賞している。
 注目の第93回アカデミー賞は26日(日本時間)に開催されるが、本作は以前に紹介した「ミナリ」と並んで6部門でノミネートされている。
 マクドーマンドは「ファーゴ」「スリー・ビルボード」に続いて3度目のオスカーを手にする予感がする。


<荒井幸博のシネマつれづれ> ノマドランド
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(木曜12時)を担当。