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悲運の提督/「判官びいき」の系譜

源 義経:第8回

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武蔵坊弁慶のことども

 義経をめぐる女性の話題が続いたが、今回は手前みそながら、私の郷里である紀州(和歌山県)出身の武蔵坊弁慶と義経の関係に焦点を当ててみたい。

 弁慶は架空の人物という説もあるが、歴史書「吾妻鏡(あづまかがみ)」にも名前が見られることから実在の人物とみられるものの、実態はよくわからない。
 「義経記」では紀州・熊野の別当である弁せうという人物の子で、母の胎内に18カ月いたため、生まれた時には歯も生えそろい、髪も伸びていたという。鬼神だと思われて父に殺されそうになるところを母の懇願で助命され、「鬼若」と名付けられて育てられる。
 やがて比叡山に預けられるが、乱行をたびたび働いて山から追い出され、諸国を放浪した末に播磨国(兵庫県)書写山円教寺にたどり着くが、所業の悪さからここも追い出されてしまう。

「判官びいき」の系譜/源 義経:第8回

 京都に出た弁慶は千本の太刀を奪うことを目論み、千本目の相手として京の鞍馬山に身を寄せている牛若丸を襲うが、敗北して家臣となる。〝京の五条の橋の上~〟で始まる文部省唱歌「牛若丸」は人口に膾炙(かいしゃ)しているが、牛若との対決の場は初め五条天神で、決着がつかず清水寺でも戦ったことになっている。
 颯爽(さっそう)とした若武者の義経と、気は優しくて力持ちの荒法師弁慶は絶妙な凸凹(でこぼこ)コンビである。義経は多くの女性たちと噂になるが、弁慶は無骨で女性は苦手と好対照に描かれる。
 この取り合わせは古今東西に見られる物語の型である。欧米では「バディムービー」と呼ばれ、ドラマや映画で多用されている。日本でも古くは「東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ)」の弥次さんと喜多さん、現代ではかつての「あぶない刑事」や、今人気の「相棒」などもこの型に従っている。

 ところで2人には共通点があることにお気づきだろうか。幼名の牛「若」と鬼「若」、いずれも鞍馬山と比叡山という霊山で仏道修行したこと、ともに人間離れした武技や怪力を駆使する点などである。
 義経伝説が形成されていく過程で、もともと人間の持っている多面的な能力が別人格に振り分けられて強調され、魅力的な2人のキャラクターが誕生したのだろう。

山大学術研究院教授

山本 陽史(やまもと はるふみ)

和歌山市出身。山大学術研究院教授、東大生産技術研究所リサーチ・フェロー、日本世間学会代表幹事。専攻は日本文学・文化論。著書に「山東京伝」「江戸見立本の研究」「東北から見える日本」「なせば成る! 探究学習」など多数。米沢市在住。

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