山形コミュニティ新聞WEB版

泌尿器講座

前立腺がんのホルモン療法(上)

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 今回から3回に分け、前立腺がんの治療であるホルモン療法(内分泌療法)についてのお話をいたします。

ホルモン療法の歴史

 前立腺がんと男性ホルモンの関係は古くから知られており、18世紀の文献には動物を去勢すると前立腺が萎縮(いしゅく)することが載っています。また中国宮廷の宦官(かんがん)は前立腺がほとんど未発達だったことも知られています。
 米国の生理学者ハギンス教授は1940年代、前立腺がんは男性ホルモンを遮断(しゃだん)すれば増殖が抑制されるとの仮説に基づき、睾丸(こうがん)の摘出あるいは女性ホルモンの投与を提唱しました。
 このホルモン療法は優れた治療効果をもたらし、ハギンス医師はその功績により66年にノーベル生理学・医学賞を授与されています。

様々な治療現場で

 ホルモン療法は現在でも様々な場面で行われています。高齢で手術や放射線治療の適応とならない患者さんへの治療のほか、放射線治療の治療効果を高めるための補助療法として、あるいは転移がある前立腺がんや手術や放射線治療後に再発した前立腺がんに対する全身療法として、幅広く選択されています。

効果には限界も

 ホルモン療法にも限界はあります。手術や放射線治療などの根治治療ではなく、ホルモン療法はあくまで前立腺がんの進行を抑えることしかできません。特に悪性度の高い前立腺がんにおける全身治療には効果は限定的です。
 また男性ホルモンなしでもがん細胞が成長してしまう「去勢抵抗性前立腺がん」もあることが分かってきました。

新薬も続々と登場

 ただ、そうしたホルモン療法の限界を補うような新薬も続々と登場しています。診断時に既に転移があるなどリスクの高い患者さんでの前倒しでの治療の有効性も認められています。

いしい腎泌尿器科クリニック 院長

石井 達矢(いしい たつや)

1999年(平成11年)山形大学医学部卒業。山形大学附属病院、山形市立病院済生館、公立置賜総合病院勤務などを経て、2020年5月いしい腎泌尿器科クリニックを開業。医学博士。日本泌尿器科学会認定専門医・指導医。日本医師会認定産業医。

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