山形コミュニティ新聞WEB版

泌尿器講座

前立腺がんのホルモン療法(中)

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 今回は前立腺がんに対し、薬剤を使って実際に行われているホルモン療法のお話です。

内科的去勢

 前回、前立腺がんは男性ホルモンを抑制すれば増殖が防げることをお話ししました。男性ホルモンを抑制するには精巣摘除術に加え、薬剤を使ったホルモン療法が有効です。同療法は精巣摘除術と同等の効果が得られることから「内科的去勢」とも呼ばれます。

男性ホルモンの分泌機序

 同療法を理解するには、男性ホルモンがどのようなメカニズムで分泌されるかを知っておく必要があるでしょう。
 男性ホルモンはおよそ95%が精巣から分泌されます。まず脳の視床下部からLHRH(黄体形成ホルモン放出ホルモン)が分泌され、脳の下垂体でLH(黄体形成ホルモン)の分泌を促します。
 このLHが精巣に働いて男性ホルモンの分泌を促進するのです。

アゴニスト

 同療法には「アゴニスト」と「アンタゴニスト」の2つの薬剤が使われます。
 アゴニストはLHRHに似た構造の薬剤で、自分の体で作るLHRHより下垂体への刺激が強いのが特徴です。このため投与初期は一過性に男性ホルモンの分泌が増える〝フレアアップ現象〟が生じますが、その後は〝ダウンレギュレーション(脱感作)〟という受容体の反応低下や数の減少が起きる結果、下垂体からのLHの産生が抑制されて精巣からの男性ホルモンの分泌が減少します。

アンタゴニスト

 アンタゴニストはアゴニストの逆で、直接下垂体に結合し、自分の体で作るLHRHが下垂体に結合するのをブロックします。
 その結果、下垂体からのLHの分泌が投与初期から低下し、精巣からの男性ホルモンを速やかに低下させます。

いしい腎泌尿器科クリニック 院長

石井 達矢(いしい たつや)

1999年(平成11年)山形大学医学部卒業。山形大学附属病院、山形市立病院済生館、公立置賜総合病院勤務などを経て、2020年5月いしい腎泌尿器科クリニックを開業。医学博士。日本泌尿器科学会認定専門医・指導医。日本医師会認定産業医。

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