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荒井幸博のシネマつれづれ

ボイリング・ポイント 沸騰

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一夜のレストランでの出来事

 ロンドンの高級レストランを舞台に、様々なトラブルを抱えた男のスリリングな一夜を、全編90分ワンショットで追った人間ドラマ。主演は「アイリッシュマン」のスティーヴン・グレアム。

<荒井幸博のシネマつれづれ>ボイリング・ポイント 沸騰

 一年で最もにぎわうクリスマス前の金曜日。オーナーシェフのアンディが店に到着すると、そこに待ち構えていたのは保健所の監査員。ただでさえ妻子との別居などで精神的にまいっているところに、監査の結果、衛生管理の問題点を指摘されアンディのいらいらは募るばかり。不満を爆発させ、思わずスタッフに八つ当たりしてしまう。


 いざ開店したものの、予約過多で店内は一触即発状態。訪れる客も、黒人ウエイトレスを見下す人種差別者、メニューにない料理を注文するグルメ気取り、ナッツアレルギーの女性客など、ひと悶着を起こしそうな顔ぶれが次々に登場する。

 副料理長格のカーリーは店での待遇に不満を抱き、支配人エミリーは次々に発生するトラブルを解決する力がない。


 そんな中、アンディのライバルシェフが有名な料理評論家を連れて不意に来店、脅迫まがいの取引を持ちかけてくる。


 アンディだけでなく、店内のスタッフ全員の精神状態はタイトル「ボイリング・ポイント」が示すように、まさに沸騰点、我慢の限界に達しようとしていた――。

 CGを使わず、編集も排した90分間のノンストップ長回しのリアリティ、臨場感は半端なく、ドキュメンタリー映画を見ているような錯覚に陥る。これから起きることへのサスペンスフルな緊迫感は手に汗握らせる。


 製作・監督・脚本を務めたフィリップ・バランティーニは15年間レストランでシェフを務めたことがあり、裏と表を知り尽くしているからこそ難解な撮影を成し遂げ、濃密な人間ドラマを作り得たのだろう。


 レストランのフロア・厨房での顧客、シェフ、スタッフの動き、表情、台詞も素晴らしい。繰り返し観たくなり、料理も楽しめる映画だ。

 

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。


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