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荒井幸博のシネマつれづれ

銀河鉄道の父

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知られざる賢治の父親像

 門井慶喜が宮沢賢治の父である政次郎を主人公に究極の親子愛を描いて直木賞を受賞した「銀河鉄道の父」を、「八日目の蟬」「いのちの停車場」の成島出監督が映画化した作品。政次郎を役所広司、賢治を菅田将暉が演じる。

 岩手県で質屋を営む宮沢政次郎は跡取息子の賢治を溺愛し、周囲からは〝親バカ〟と揶揄(やゆ)されるほど。だが親の心子知らずで、賢治は家業を継がねばならない立場でありながら適当な理由をつけてはそれを拒んでいた。


 稼業とは関係のない農林学校に進学したり、宗教に傾倒したかと思えば、人工宝石の製造に手を出しては失敗する始末。我が道を突き進むそんな賢治に対し、政次郎は厳格な父親であろうとするが、つい甘やかしてしまうのだった。


 やがて、賢治は妹・トシの病気をきっかけに童話作家の道を歩み始めるのだが……。

 今年は宮沢賢治の没後90年。生誕100年に当たる1996年には松竹で「宮澤賢治―その愛」、東映では「わが心の銀河鉄道 宮沢賢治物語」が公開されている。


 前者は仲代達矢と三上博史、後者は渡哲也と緒形直人が政次郎・賢治を演じていたが、「無名塾」出身で仲代の教え子である役所が27年後の本作で政次郎を演じるのは興味深い。


 成島監督と役所は1月公開の「ファミリア」に続くコンビ。また賢治役の菅田と役所は待望の初共演になる。それぞれの世代を代表する俳優として互いをリスペクトし合っている2人だからこそ最高に魅力的な父と子を演じている。


 他に賢治の妹トシを森七菜、母イチを坂井真紀、祖父の喜助を田中泯、弟・清六を豊田裕大が演じ、「かぐや姫の物語」の坂口理子が脚本を担当した。

 親が子を亡くす哀しい物語ではあるが、全編にわたりそこはかとないユーモアが散りばめられている。舞台となっている東北の風景、方言にも癒され、改めて宮沢賢治の作品を読もうと思わせてくれる。

 


シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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