山形コミュニティ新聞WEB版

荒井幸博のシネマつれづれ

怪物

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果たして怪物は何処に?

 映画「花束みたいな恋をした」などで人気の脚本家・坂元裕二のオリジナル脚本を、「万引き家族」でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した是枝裕和監督が映画化したヒューマンドラマ。音楽は3月28日に71才で亡くなった坂本龍一が担当した。

<荒井幸博のシネマつれづれ>怪物

 郊外の町で小学生の息子・湊と暮らすシングルマザーの麦野早織(安藤サクラ)は、湊が担任の保利(永山瑛太)からモラハラと暴力を受けたと聞き学校に乗り込む。だが保利は「誤解を生むことになって残念だ」と述べるにとどまり、挙句に「あなたの息子さん、イジメやってますよ」と言い放つ。


 学校側はことを穏便に収めようと、緊急の保護者会を開いて保利を謝罪させ、退職に追い込もうとするが…。


 当初は早織に共感し、保利やことなかれ主義の学校に強い憤りを覚えるのだが、どうやらそうでもないらしい。子どもの無邪気(むじゃき)な友情とは裏腹の残酷さに親も教師も気が付かない。果たして「怪物」とは?

 湊と、その友達の依里を演じる黒川想矢と柊木陽太の2人が素晴らしく、子役の演出で定評のある是枝監督の面目躍如。安藤と瑛太のほか、田中裕子、高畑充希、中村獅童らの好演も光る。


 小さな誤解や齟齬(そご)から細やかな嘘も挟み込まれ事態が深刻な方向に転げ落ちていく様を是枝裕和監督の巧みな演出と編集、そして是枝監督の依頼で初タッグを組んだ坂元の脚本によって観る人の心は大きく揺さぶられる。


 長野の美しい自然の中での子供たちの世界をより強く印象付けたのが坂本の音楽。がんとの闘病中、最後の力を振り絞って紡ぎ出した作品で、是枝監督にとって坂本に音楽を担当してもらうのは長年の夢だったという。

 本作は今月18日にカンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映され、9分半のスタンディングオベーションを浴びた。


 是枝監督にとって「万引き家族」に続く戴冠となるか――。刮目(かつもく)して待ちたい。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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