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荒井幸博のシネマつれづれ

水は海に向かって流れる

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重いテーマを爽やかに描く

 田島列島の同名人気漫画を「そして、バトンは渡された」「ロストケア」の前田哲監督が実写映画化。主演は広瀬すず。

<荒井幸博のシネマつれづれ>水は海に向かって流れる

 高校入学を控え通学のため叔父(高良健吾)の家に居候することになった直達(大西利空)。だが大雨の中、最寄り駅に迎えにきたのは見知らぬ大人の女性、榊さん(広瀬)だった。


 案内された叔父の家はシェアハウスだった。親に黙って脱サラして漫画家になっていた叔父、女装の占い師(戸塚純貴)、海外を放浪する大学教授(生瀬勝久)、そして26歳のOL榊さんに直達を加えた男女5人の共同生活が始まる。


 やがて直達は榊さんに淡い恋心を抱き始めるが、彼女との間には悪しき因縁があることを知ってしまう――。

 10年前に受けた深い心の傷によって他人に心を開かず、「私、恋愛しないので」と言い切るクールな榊さんを広瀬が好演。これまでは可愛い女の子というイメージだったが、本作では紛れもなく美しい大人の女性に変貌していたのに驚く。前田監督によれば「試写を観てご本人(広瀬)もかなり手ごたえを感じたようだった」とか。


 彼女に正面から向かっていく直達を演じた大西利空の熱演も光る。榊さんに共鳴し、彼女の怒りを自分のことのように吐き出す場面には大きな感動を覚えた。

 直達を思慕する同級生・楓を演じた當間あみ(16)は現在放送中のNHK大河ドラマ「どうする家康」にも出演中の成長株。オーディション時は14歳で、前田監督は「宮崎あおい、高畑充希、二階堂ふみも14歳の時に出会っていて、彼女らに匹敵する輝きを感じる」という。大西と當間の場面には思わず胸キュンしてしまう。


 直達の父親役の北村有起哉の演技は秀逸。坂井真紀、勝村政信、そしてシェアハウスの面々、皆が素晴らしい。

 こんなシェアハウスに住んでみたいし、直達君と楓ちゃんを応援し、榊さんをそっと抱きしめたくなるのでした。

 


<荒井幸博のシネマつれづれ>ルー、パリで生まれた猫

荒井幸博(あらい・ゆきひろ)1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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