山形コミュニティ新聞WEB版

泌尿器講座

腎臓の腫瘍(2)

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 腎細胞がん(腎がん)が初期の段階なら、前回お話ししたように腎臓ごと摘除する「全摘」か、患部と周辺だけを摘除する「部分摘除」かが選択できます。

従来はサイトカイン療法

 ただ、腎がんは進行すると腫瘍が周囲のリンパ節に転移したり、肺や肝臓・脳など他の臓器に転移することがあります。腎臓の外にがんが認められる場合、全摘や部分摘除といった外科的治療では不十分で、全身治療(薬物療法)が基本になります。
 その場合、腎がんには有効な抗がん剤がなく、従来はインターフェロンやインターロイキンによる「サイトカイン療法」が中心でした。ただ肺転移には一定の効果が認められるものの、有効率が15~20%程度にとどまるのがネックでした。

分子標的薬の登場

 薬物療法が大きく進歩したのは2008年以降です。同年、がん細胞の増殖に関わる特定のたんぱく質に作用し、がん細胞が増殖するのを抑える「分子標的薬」が初めて承認されたのです。
 分子標的薬はサイトカイン療法だけの治療に比べ、がんが進行せず安定した状態(無増悪生存期間)が長く保てるというメリットがあります。

さらなる新薬も

 さらに16年には、自分の免疫の力を使ってがん細胞への攻撃力を高める「免疫チェックポイント阻害薬」も登場しています。
 免疫チェックポイント阻害薬は分子標的薬と違い、有効な方は治療効果が長期間継続します。腎がん治療は新時代に入ったともいえるでしょう。

使用時はチーム医療で

 ただ、免疫チェックポイント阻害薬には様々な臓器で自己免疫疾患のような副作用が生じることがあります。このため治療に際しては、各診療科の専門医がそろっている総合病院で泌尿器科、内科などの医師、薬剤師、看護師が連携してチーム医療で使用することが不可欠になっています。

いしい腎泌尿器科クリニック 院長

石井 達矢(いしい たつや)

1999年(平成11年)山形大学医学部卒業。山形大学附属病院、山形市立病院済生館、公立置賜総合病院勤務などを経て、2020年5月いしい腎泌尿器科クリニックを開業。医学博士。日本泌尿器科学会認定専門医・指導医。日本医師会認定産業医。

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