山形コミュニティ新聞WEB版

荒井幸博のシネマつれづれ

シャイロックの子供たち

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池井戸得意の銀行の裏側

池井戸潤の同名ベストセラー小説を、阿部サダヲ主演で映画化したエンターテインメントミステリー。

 中小企業や町工場がひしめく下町にある東京第一銀行・長原支店で100万円が紛失する事件が発生する。ベテラン行員の西木雅博(阿部)は、同じ支店に勤務する北川愛理(上戸彩)、田端洋司(玉森裕太)とともに事件の真相を探ろうとする。


 西木たちは札束の帯封から事件に隠されたある事実にたどりつくが、それはメガバンクを揺るがす不祥事の始まりに過ぎなかった。

<荒井幸博のシネマつれづれ>シャイロックの子供たち

 池井戸小説はテレビドラマ化された「半沢直樹」「下町ロケット」「陸王」、映画化された「空飛ぶタイヤ」「七つの会議」「アキラとあきら」などが知られ、特に元銀行員の経験を生かして金融界の裏側を描いた作品を得意としている。


 中でも2006年に刊行された本作は池井戸自身が「小説の書き方を決定づけた記念碑的な一冊」と明言している。原点にして最高峰とも言える池井戸小説のメガホンを取ったのは「空飛ぶタイヤ」の本木克英。

 登場するのは、パワハラ上司、アピール達者な者、顧客に弱みを握られている者、精神を病んでいく者、他人を陥れようとする女子行員…。これらを佐藤隆太、佐々木蔵之介、柳葉敏郎、杉本哲太、木南晴夏、柄本明、橋爪功、渡辺いっけいらが演じる。 


 曲者ぞろいの行員に囲まれ、長年真面目に勤めてはきたが、出世とは無縁な地味行員・西木がメガバンクで起きている不正を暴こうとする姿に「頑張れ!」と応援せずにはいられなくなる。

主演の阿部は、昨年の「死刑にいたる病」「アイ・アムまきもと」では悪人と善人の対極を見事に演じたが、本作では、問題を抱えながらも〝バンカーとしての矜持〟〝叩き上げの誇り〟を持ち続け直進する男を魅力的に演じている。

 出世競争に翻弄され、普通に暮すことの幸福を見失いがちなバンカーの世界が垣間見れる作品。

 

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。


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