山形コミュニティ新聞WEB版

荒井幸博のシネマつれづれ

市子

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次々明かされる衝撃の過去

 川辺市子(杉咲花)は3年間同棲してきた恋人の長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズされ、涙を浮かべるほどの喜びをみせるが、幸せの絶頂と思われた翌日に姿を消してしまう。

 途方に暮れる長谷川のもとを「市子を探している」という刑事・後藤が訪ねてくる。市子に何があったのか?

 考えてみれば、長谷川は市子の出自や過去について何も知らなかったことに気づく。長谷川は市子の幼なじみ、高校時代の同級生、昔の同僚など彼女と関わりがあった人々を訪ねてまわる。

 それぞれの証言から彼女の壮絶な過去と計り知れない人物像、そして衝撃的な真実が次々と浮き彫りになるのだった。

 名前を変え、年齢を偽り、社会から逃れるように生きてきた市子はなぜそんな人生を歩まねばならなかったのか――。

 劇団チーズtheaterを主宰する戸田彬弘監督が、劇団の旗揚げ公演で上演し、サンモールスタジオ選定賞に輝いた人気の舞台「川辺市子のために」を自らメガホンをとって映画化したのが本作。

 市子を演じるのは、「湯を沸かすほどの熱い愛」で新人賞や助演賞を多数受賞し、NHK朝の連続ドラマ「おちょやん」で主演した若手実力派の杉咲花。陰影深い演技で謎に満ちた市子を見事に演じ切っている。

 市子の足跡を探り、その謎に迫っていく好漢・長谷川を若葉竜也が演じる。若葉は幼いころから大衆演劇の世界で育ち、「葛城事件」で演じた無差別殺人犯役で強烈な印象を残した。杉咲とは「おちょやん」で共演しており、息の合ったところをみせている。

 このほか後藤刑事を今や欠かせないバイプレーヤー宇野祥平が演じているほか、中村ゆり、渡辺大知、森永悠希などが顔をそろえる。市子について証言する人物を演じる無名俳優たちの演技も見ごたえ十分。

 果たして市子は悲劇のヒロインなのか?それとも稀代の悪女なのか?深いテーマを投げかける秀逸なミステリー映画。

 

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。


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