ルー、パリで生まれた猫
子猫との出会いと別れ
パリのアパートで両親と暮らす10歳の少女クレムが屋根裏で見つけたのは、母猫とはぐれた生まれたばかりのキジトラの子猫だった。「グルー、グルー」とのどを鳴らすことから「ルー」と名付けて一緒に暮らし始める。
両親の不仲に心を痛めるクレムにとって、ルーの存在は心のよりどころのようになっていく。離婚するという事実を突きつけられ、傷つき悲しんでいる時も、ルーはクレムを元気づけようと戯れてくるのだった。
そんなある日、森の別荘を訪れたクレムとルーは、黒い大型犬を連れた初老の女性、マドレーヌと出会う。やがてクレムとルーは……。

ルーの豊かな表情や仕草が何とも可愛らしい。冒頭の屋根裏での様子、ネズミを追いかけたり窓辺の鳩を狙う様は、さながら岩合光昭の「世界ネコ歩き」のよう。
また森でオオヤマネコやイノシシ、フクロウが登場する場面もあり、これはCGやアニマトロニクスなどの特殊効果を駆使しているのかと思いきや、実写とのことで驚いてしまう。これを可能にしたのはミュリエル・ベックという動物トレーナーで、動物行動学を学んだ彼女はこれまでに1000作以上の作品に携わってきた達人とか。
監督は、人間の俳優を捉えるように動物の視点に立って撮ると称される動物映像監督ギヨーム・メダチェフスキ。パリのアパートや美しい街並み、森の中でルーを始め動物たちが瑞々しい〝演技〟を見せてくれたのもうなずける。800人の候補者から選ばれたクレム役のキャプシーヌ・サンソン=ファブレスの演技も特筆もの。
ただ、猫が可愛いだけの映画だと思ったら、家族の問題、自然との共生、そしてルーとクレムの成長の物語になっている。
個人的な話で恐縮だが、実は猫が苦手。以前、マタタビをゆでている現場に取材で訪れ、帰りに知人宅に立ち寄った際、飼い猫3匹につきまとわれ往生したからなのだが、本作を観たら「猫との暮らしも悪くないかな」と思わせられた。

荒井幸博(あらい・ゆきひろ)1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。