山形コミュニティ新聞WEB版

セピア色の風景帖

《セピア色の風景帖》 番外編 みどり湯(幸町)

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 昭和30年代には一般住宅内に風呂がない場合が多かったこともあり、山形市内に36軒の銭湯があった。その後、内風呂の普及に伴い銭湯の数は減っていった。

《セピア色の風景帖》 番外編 みどり湯(幸町)

 それでも近年まで4軒ほどが営業を続けていたが、①スーパー銭湯や温泉公衆浴場の増加②経営者の高齢化と後継者難③公衆浴場への補助金(年間50万円)が2006年で廃止④原油価格の高騰—— などにより、「桃の湯」(旅籠町)、「富士乃湯」(円応寺町)、「滝の湯」(六日町)が相次いで廃業や休業に追い込まれ、現在も営業しているのは「みどり湯」(幸町)だけになった。

 その「みどり湯」を訪ねた。

《セピア色の風景帖》 番外編 みどり湯(幸町)

 目の前の道路を通り過ぎる車にさえ、ここが銭湯であることを気づかせるものは何もない。少々思い切って扉を開けることになるが、扉一枚向こうは紛れもない典型的な銭湯だ。

 直前まで営業していた山形市内の他の銭湯は大人300円の統一料金だったが、ここだけは半額の150円。小学生60円、幼児に至っては30円である。料金も昔に戻ったような感覚。ドアの端に直に営業時間が書いてある。「至午后八時」の「八」が「七」に書き換えられており、原油高の影響か営業時間を短縮しているようだ。
 脱衣所は決して広くない。ロッカーの数からすると40人は同時に入れることになるのだが、とてもそんな広さはない。それでも昔は芋の子を洗うように人があふれていたのかも知れない。鍵の番号はなぜか不規則で、順番どおりに並んでいるわけではない。理由は不明。

《セピア色の風景帖》 番外編 みどり湯(幸町)

 浴槽は広くはないが深めのタイプ。鏡の多くは曇ったままで用をなさない。ケロリンの洗面器と低めの樹脂イス。設備は古いが浴室内はよく整っている。湯は私には適度な温度で深さも十分であった。
 脱衣所の鏡はクリアである。但し書きの類はすべて筆書のため、より時代を感じさせる。広告はどれも数十年前のもので、現在三桁になっている電話局番が一桁のままの表記であった。

《セピア色の風景帖》 番外編 みどり湯(幸町)

 主人の話では先代による開業は50年ほど前というから、昭和30年ごろであろう。組合に入っておらず、統一料金にも従わなかったから市の補助も受けられなかったという。
 経営は苦しいそうだ。ただでさえ安価なうえ、原油高であるからそれも当然だろう。
 主人に、はっきりした看板を出して「みどり湯」の存在を周知してはどうかと言ってみたものの、そんなことをしても駐車場がないから結果は変わらないとのことだった。
 確かに駐車場は全くない。私は近くの郵便局に停め、切手を買うついでに入浴したが、増客は困難な状況であることは明白であった。
 主人は資金があればもう一度銭湯をやりたいと言ったが、実現は難しかろう。この建物が最後になる可能性が高い。
 午後3時〜7時までの営業というのは仕事を持つ身には使いにくい。5時〜9時くらいだとありがたいが、何か理由があるのだろう。
(F)

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