セピア色の風景帖
《セピア色の風景帖》第187回 温泉旅館周辺
インバウンドで県内の有名な温泉街には外国人観光客が押し寄せているが、活況を呈しているホテルや旅館以外に目を転じると、何とも寂れた雰囲気が漂っている。
ホテルや旅館の周辺にあった飲食店、土産店、スマートボールや射的、カラオケ店といった遊戯施設など、建物は残っていても多くは閉店し、夜ともなればひっそりと静まり返っている。
以前は映画館や小劇場なども備えられ、大声で歩く団体がそこかしこに見られたものである。

こうなった原因のひとつに、大きなホテルや旅館の〝抱え込み戦略〟があったと思われる。宿泊、宴会だけでなく土産の購買や二次会のカラオケ、締めのラーメンまで館内で済ませられるようにすればお金はすべて宿泊施設に落ちる。その戦略は確かに当たり、宿泊客の多くは温泉街に繰り出すことがなくなった。
通りに人の姿がなくなると、ホテルや旅館は潤っても温泉街全体としてみれば衰退の雰囲気が生まれてしまう。
一般の商店街にも言えることだが、持ちつ持たれつで成り立っていたところに独占の思想が入り込むと、全体の退潮を招いてしまうのではないだろうか。(F)