乳腺外来の現場から/乳頭分泌
妊娠、授乳に関係のない時期に乳首から分泌物が出る症状を「乳頭分泌」といいます。
乳がんのケースも
乳頭分泌はそれほど珍しい症状ではなく、大半が治療の必要がない「乳腺症」によるものです。分泌物は「無色透明」「黄色っぽい」「母乳のような」色調が多く、この場合は基本的に心配は無用です。
ただ色調が「赤」「茶」「黒」のように血液を連想させるようなケースでは乳がんによる分泌の可能性があり、この場合は速やかにお近くの医療機関の診察を受けましょう。
乳管組織から出血

乳がんの多くは、母乳を乳頭まで運ぶ通り道(乳管)を形成する組織ががん化することで発症します。がん化した乳管の組織から出血が生じ、それが赤や茶、黒の分泌物となって乳頭から出てくるわけですね。
良性腫瘍(しゅよう)や炎症などでも乳頭から血液が出てくることがありますが、いずれにせよ、乳がんを否定するためにも精密検査をお勧めします。
脳下垂体の腫瘍も
余談ですが、授乳していないのにも関わらず大量の母乳で下着が汚れるような場合には、母乳の分泌を促すホルモン(プロラクチン)の亢進(こうしん)が考えられます。このホルモンは脳下垂体から分泌されており、脳下垂体の腫瘍が隠れている可能性があります。
このほか、薬物の副作用で母乳の分泌が促進される場合もあります。
医療機関に相談を
乳頭や乳輪のただれによる浸出液を「分泌」と感じて受診される方も多くいらっしゃいます。また、真の分泌ではないのですが、非常に稀(まれ)な「乳房パジェット病」という、いつまでも治らない皮膚炎を契機に発見される疾患もあります。
様々なそんな悩みを抱えていらっしゃる方は、安心のためにもお近くの医療機関に相談されることをお勧めします。

うるしやまクリニック院長 院長
尾形 貴史(おがた・たかし)
2007年山形大学医学部卒業。同大付属病院、公立置賜総合病院、山形済生病院などを経て現職。日本乳癌学会乳腺認定医。2025年2月に「うるしやまクリニック」開院。
