停留精巣
新生児の男の子に希(まれ)にみられる「停留精巣(ていりゅうせいそう)」とは、陰嚢の中に精巣(睾丸(こうがん))が入っていない状態のことをいいます。
精巣が陰嚢に達せず
胎児(たいじ)がお母さんのお腹の中にいる時、精巣は腹腔内(ふくくない)を骨盤内から鼠径部(そけいぶ)を下降して陰嚢内に移動しますが、停留精巣では精巣の下降が陰嚢まで達せず、途中で止まってしまっています。
出生直後に確認されることが多く、生後3カ月以内に自然に下降することはありますが、生後6カ月を過ぎてから精巣が自然下降することはほぼありません。
出生体重が低いほど頻度は高く、2500グラム以下は2.4%、1500グラム未満では42.8%とされます。

放置すれば精子数減少も
精巣が精子をつくるには体温より少し低い温度が適していますが、腹腔内は約37度と高温で、精巣がその場所にあると精子の質や数に悪影響を及ぼしてしまいます。
陰嚢の中は体温より温度が低く、精巣は陰嚢の中にあることで精子をつくる環境が保たれるようになっています。
精巣がんリスクも
また、停留精巣が精巣がんに至るリスクは2.2~4.4倍とされ、精巣がん患者の5~10%に停留精巣の既往があることも知られています。
特に、腹腔内精巣や両側性停留精巣、思春期まで停留精巣の治療が行われていない場合に悪性化のリスクが高いとされています。
治療には精巣固定術
停留精巣の治療は精巣を探し、見つけ出した精巣と陰嚢底部を糸で固定する手術を行います(精巣固定術)。先に述べましたように、精巣の自然下降は生後6カ月以降には期待できないことから、停留精巣の治療はできるだけ早期が望ましく、日本では2歳までに手術することが推奨されています。早期治療により、精巣機能の温存が期待されます。

いしい腎泌尿器科クリニック 院長
石井 達矢(いしい たつや)
1999年(平成11年)山形大学医学部卒業。山形大学附属病院、山形市立病院済生館、公立置賜総合病院勤務などを経て、2020年5月いしい腎泌尿器科クリニックを開業。医学博士。日本泌尿器科学会認定専門医。日本医師会認定産業医。
