鼠径ヘルニア(下)
鼠径(そけい)ヘルニアの手術には出血や感染、他臓器の損傷などの合併症を起こす危険もあり、症状がほとんどない場合は経過観察で様子をみることもあります。
ただ根本的に治すには手術が必要で、患者さんにはメリット、デメリットを十分にご説明したうえで治療方針を決定することになります。
根本的治療には手術
手術の目的は、飛び出ている腹膜の袋(ヘルニア嚢(のう))を切除し、すき間の穴(ヘルニア門)を塞(ふさ)ぐことでヘルニアを修復することにあります。かつてはヘルニア門を縫って閉じる方法が主流でしたが、この方法では緊張が強く、再発も少なくありませんでした。
そのため、現在は人工の膜(メッシュ)を使ってヘルニア門を塞ぐ方法が一般的になっています。
切開法と腹腔鏡法

メッシュを使う場合、やり方には「鼠径部切開法」と「腹腔鏡下修復法」の2通りがあります。切開法は鼠径部を約5センチ切開し、体表からアプローチします。腹腔鏡法はへそとへその左右に5ミリの穴をあけ、おなかの内側から修復します。
切開法の方が手術時間が短く、費用も抑えられます。これに対し、腹腔鏡法は手術時間がやや長めになるデメリットはありますが、傷口が小さく、痛みが少ないというメリットがあります。
選ぶのは患者さん
日本ヘルニア学会は「腹腔鏡法に習熟した外科医が実施する場合には腹腔鏡手術が推奨される」としていますが、どちらを選択するかは患者さんの自由。「全身麻酔は嫌だ」「おなかの手術をしていて癒着(ゆちゃく)が心配」などという患者さんには最初から鼠径部切開法を選択する場合もあります。
膨らみが気になったら
加齢に伴い、鼠径ヘルニアは誰もがなり得る疾患です。鼠径部の膨らみが気になったら、お近くの病院を受診することをお勧めします。

山形済生病院 外科診療副部長
藤本 博人(ふじもと・ひろと)
2002年(平成14年)山形大学医学部卒業。山形大学附属病院、県立河北病院、公立置賜総合病院、県立中央病院などを経て、15年12月より現職。外科学会、消化器外科学会専門医・指導医。内視鏡外科学会技術認定医。
