鼠径ヘルニア(上)
「鼠径(そけい)ヘルニア」とは聞きなれない用語かもしれませんが、実は加齢とともに増え、中高年男性の3人のうち1人は一生のうち1度は経験するといわれている病気です。
脚の付け根から腸が!
鼠径部とは脚の付け根、太ももの付け根の内側のことで、ヘルニアとはもともと内側にある組織が正常な位置から飛び出すことです。
人間の内臓は腹膜(ふくまく)という膜に包まれています。ただ鼠径部の腹膜は脆弱(ぜいじゃく)なところがあり、そこから腹膜に包まれた内臓が飛び出した状態が鼠径ヘルニアなのです。実際には腸が出てくることが多いので「脱腸(だっちょう)」ともいわれます。

放置すれば腸の壊死も
子どもの鼠径ヘルニアは先天的なものですが、大人の鼠径ヘルニアは加齢による筋力の低下などが原因です。
鼠径ヘルニアを放置しておくと膨らみがだんだん大きくなり、重苦しさや痛みを感じることもあります。また急に力を入れた時などに膨らみが硬くなり、押しても戻らない「嵌頓(かんとん)」という状態になることもあります。
嵌頓の状態になると痛みが強烈なだけでなく、最悪の場合は腸が壊死(えし)してしまいます。
診断は問診、視診、触診
診断は基本的には問診と視診、触診です。その他の病気の可能性がある場合は、超音波検査(エコー)やコンピューター断層撮影装置(CT)を併用することもあります。
治療の基本は手術
治療ですが、ヘルニアバンドなどで押さえて腸が出てこないようにする方法もありますが、根本的に治すには手術が必要で、薬では治すことはできません。
手術には様々な方法があり、実際には「鼠径部ヘルニア診療ガイドライン」に沿って患者さんと相談して治療方針を決定します。これについては次回に詳しく説明します。

山形済生病院 外科診療副部長
藤本 博人(ふじもと・ひろと)
2002年(平成14年)山形大学医学部卒業。山形大学附属病院、県立河北病院、公立置賜総合病院、県立中央病院などを経て、15年12月より現職。外科学会、消化器外科学会専門医・指導医。内視鏡外科学会技術認定医。
