山形コミュニティ新聞WEB版

荒井幸博のシネマつれづれ

護られなかった者たちへ

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福祉制度のあり方を問う

 中山七里の同名小説を瀬々敬久監督がメガホンをとり、佐藤健と阿部寛のW主演で映画化したヒューマンドラマ。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 護られなかった者たちへ

 東日本大震災から10年目の仙台で、全身を縛られたまま放置され餓死させられるという凄惨な連続殺人事件が発生する。宮城県警の刑事・笘篠誠一郎(阿部)が捜査を開始するが、被害者の三雲忠勝(永山瑛太)と城之内猛(緒形直人)はともに善人で他人から恨みを買っていたとは思えず、怨恨の線は薄いとみられた。

だが被害者2人が以前、同じ福祉保険事務所で働いていたことが判明、容疑者として過去に放火で服役し、刑期を終えて出所していた利根泰久(佐藤)が捜査線上に浮かび上がる。

 利根は児童養護施設育ちで、10年前の震災後に避難所で独り暮らしの遠島けい(倍賞美津子)と震災で親を亡くした少女カンちゃんと出会い、肩を寄せ合うようにして暮らしていた。


 だが温もりのある3人の暮らしはあることをきっかけに破綻し、それが利根の放火の引き金になったのだった。そんな利根を追い詰めていく笘篠だったが、決定的な証拠がつかめないまま第3の殺人事件が起きようとしていた――。

 瀬々監督は「64(ロクヨン)」など社会派作品で高い評価を得ているが、本作も震災後の生活保護が抱える深い闇がテーマ。現在の社会福祉制度のあり方を考えさせられる作品だ。


 主演の佐藤は緊張感あふれる張りつめた演技で引っ張り、阿部寛と対峙。だからこそ、けいとカンちゃんとの場面での柔らかな表情にグッとくる。放送中のNHK連続 テレビ小説「おかえりモネ」でヒロインを演じている清原果耶はデビュー6年目の19歳ながら、既に風格すら感じさせる。

 舞台挨拶での佐藤の弁。
「自分の大切な人を護れる社会であって欲しいし、そんな社会を作るために1人ひとりが声をあげたり、生き方を考えることが重要なんじゃないかと思います」

 

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。


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