山形コミュニティ新聞WEB版

荒井幸博のシネマつれづれ

桜色の風が咲く

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実話を基に描く感動ドラマ

 視覚と聴覚の重複障害者(盲ろう者)として世界で初めて大学教授になった福島智・東京大学先端科学技術研究センター教授と母・令子さんの実話を基に描いた感動の人間ドラマ。

<荒井幸博のシネマつれづれ>桜色の風が咲く

  教師の正美(吉沢悠)と令子(小雪)の夫婦は3人の息子に恵まれ、幸せに暮らしていたが、末っ子の智が生後5カ月で眼病を患(わずら)い、3歳で右目、9歳で左目の視力を失ってしまう。


 智の世話にかかりっきりになり、正美との軋轢(あつれき)や上の2人の息子への負い目が令子を苦しめる。それでも夫婦は互いに寄り添い、豊かな愛情を智に注ぐのだった。その甲斐あって、全盲になっても智は明るくやんちゃ、口も達者に育っていく。


 やがて智(田中偉登)は東京の寄宿制の盲学校に進学。ピアニストを目指す同級生に淡い恋心を抱きながら高校生活を謳歌するが、18歳になり次第に聴力も失っていく。

 光を失ったばかりか、音も失い、好きな彼女が弾くピアノの音色を聴くこともできない。まるで暗闇と無音の宇宙空間に投げ出されたような孤独感と絶望感が智を襲う。


 そんな智に立ち上がるきっかけを与えたのは、令子が彼との日常から見出した新たなコミュニケーション手段〝指点字〟だった――。

 モデルとなった福島智さんは2003年に米タイム誌で「アジアの英雄」に選出され、現在はバリアフリー研究の最先端で活躍している。


 12年ぶりの映画主演となる小雪は、脚本を読むなり出演を熱望したとか。我が子への愛ゆえに凛として、強い覚悟を持ちながらも大らかなユーモアを失わない母親像に心が打ち震えるほどの感動を覚える。


 感動は智の幼少期、少年期を演じた子役2人、そして青年期を演じる田中偉登の好演によるところも大きい。

 酒田市出身の詩人・吉野弘(2014年没)の「生命(いのち)は」が劇中で語られる。
 「生命は その生に欠如を抱き それを他者から満たしてもらうのだ」

 

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。


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