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荒井幸博のシネマつれづれ

バッド・ランズ BAD LANDS

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疾走する姉と暴走する弟!

 「破門」で第151回直木賞を受賞した黒川博行のクライムサスペンス小説「勁草」を、「クライマーズ・ハイ」「燃えよ剣」「ヘルドッグス」などで知られる原田眞人監督が実写映画化した作品。

 ネリ(安藤サクラ)は特殊詐欺グループの首謀者である高城(生瀬勝久)のもとで、だまし取った金を受け取るいわゆる「受け子」のリーダーをしている。配下の受け子は自身も住むボロアパート「ふれあい荘」の住人たち。ネリは警察の張り込みなども鋭く察知、その有能ぶりは高城から高く買われていた。

 そんなある日、刑務所から出所してきたばかりの弟ジョー(山田涼介)がネリを訪ねてくる。したたかで冷静沈着な姉と端正な顔と裏腹に切れやすいサイコな弟が、思いがけず3億円もの大金を手に入れたことから警察だけでなく巨悪に追われる羽目に――。

 本作で原田監督は脚本・プロデュースも務めた。主人公を原作(勁草)の男性から女性に変え、安藤サクラが原田監督作品に初参加。監督は「安藤さんとは以前にある映画祭でお会いし、『今度はぜひ一緒に』と約束していた。本作では世界の主演女優賞をすべて差し上げたい名演をみせてくれた」と感激の面持ち。

 山田涼介が原田監督作品に参加するのは「燃えよ剣」で沖田総司を演じて以来2度目。監督は山田に対しても「切なく危険な若者を演じきった天賦の才に魂を食いちぎられた」と惜しみない賛辞を贈っている。

 このフィルムノアールの世界を彩るサリngROCKなど関西演劇陣と生瀬、江口のりこ、吉原光夫、大場泰正ら馴染みのベテラン陣のアンサンブルも素晴らしく、黒川博行作品特有の軽快な大阪弁での掛け合いを見事に表現。そして曼荼羅を演じた宇崎竜童のカッコよさは白眉。土屋玲子の音楽も重要な役割を果たしている。

 予測不能のクライムサスペンスエンタテインメント映画。9月29日から全国ロードショー。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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