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荒井幸博のシネマつれづれ

〈荒井幸博のシネマつれづれ〉てっぺんの向こうにあなたがいる

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小百合さん、124本目の映画

 女性として初めて世界最高峰のエベレスト登頂に成功し、生涯で76カ国の最高峰・最高地点の登頂を果たした田部井淳子さんをモデルに人生をかけて〝てっぺん〟に挑み続けた女性登山家の姿を描いたヒューマンドラマ。主人公は本作が124本目の映画出演になる吉永小百合。

 1975年5月16日、多部純子(吉永)はエベレスト登頂に成功し、いちやく世間からの注目を集めるが、息子・真太郎(若葉竜也)は次第に反撥するようになる。彼女への妬みからか、女性だけの登山チーム内でも不協和音が起き、軋轢(あつれき)が生じる。

 それでも淳子は前を向き、その後も山のてっぺんを目指し続ける。それができるのも、自身も優れた登山家だったがサポート役に徹してくれる夫・正明(佐藤浩市)、編集者で生涯の友の北山悦子(天海祐希)らの存在があったればこそ。

 晩年の純子は乳がん、腹膜がん、脳腫瘍と次々に襲ってくる病魔と闘いながらも、東日本大震災で被災した東北の高校生のための富士登山プロジェクトを開始するのだった――。

 本作の原案は2016年に腹膜がんのため77歳で亡くなった田部井さんのエッセイ「人生、山あり“時々〟谷あり」。エベレスト登頂成功の偉業から50周年の今年、阪本順治監督がメガホンを取った。吉永と阪本監督のタッグは「北のカナリアたち」以来13年ぶり。

 淳子・正明夫婦の若き日をのんと工藤阿須加が演じた。

 今年80歳の吉永小百合だが、64歳の佐藤が夫を演じても、58歳の天海が長年の友を演じても何の違和感がない若さは驚異的ですらある。ヒロインのモデル田部井淳子さんと吉永の、人生に前向きな不屈の姿勢は重なりあうのではないか。

 「朝を呼ぶ口笛」で映画デビューしてから66年になる吉永小百合が本作で演じた純子は、吉永が17歳の時に主演した「キューポラのある街」のジュンの成長した姿にも思える。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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