山形コミュニティ新聞WEB版

荒井幸博のシネマつれづれ

〈荒井幸博のシネマつれづれ〉Dear Stranger ディア・ストレンジャー

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切ない移民夫婦のすれ違い

 ニューヨークに住む日本人の賢治と中華系アメリカ人のジェーンの夫婦は、幼い息子カイと何不自由なく暮らしていた。

 ただ、日本で大震災を経験した賢治は「廃墟」を研究する大学助教授だが、なかなか外部の評価は得られない。人形劇のアーティストであるジェーンは、育児や父親の介護に頭を悩ませる日々を送っている。

 そんなある日、カイが何者かに誘拐され、殺人事件も勃発する。悲劇に翻弄される中で、これまで心に秘めていた互いの本音や秘密が露わになり、夫婦間に大きな亀裂が生じていく。

 崩壊寸前になった夫婦の前にカイは無事に戻って来るのか?犯人は誰なのか?そして賢治とジェーンは、再び「幸せな家族」を取り戻すことができるのか――。

 NYで暮らす移民(ストレンジャー)であるアジア人夫婦の心理的葛藤を緊迫感の中で描くサスペンスミステリー。ディア(親愛なる)とは、賢治にとってのジェーンであり、ジェーンにとっての賢治なのだろう。

 2人は共通の言語「英語」でコミュニケーションをとっているが、生まれや育ち、背負っているものは異なり、込み入ったニュアンスは伝えられない。

 互いを尊重するあまり、結果としてズレが生じてしまう。自家用車が、夫婦の間に横たわる問題の象徴のように描かれているのが印象的だ。そして国の違うアジア人夫婦がNYで暮らすことの難しさを痛感。

 賢治を演じたのは、米アカデミー賞で最優秀国際長編映画賞に輝いた「ドライブ・マイ・カー」や「Sunny」など国際的な活躍の場を拡げる西島秀俊。

 ジェーンを演じたグイ・ルンメイは、ベルリン国際映画祭の最優秀作品賞を受賞した「薄氷の殺人」に出演するなど人気と実力共に台湾を代表する国民的女優。

 監督・脚本を担当したのは「ディストラクション・ベイビーズ」「宮本から君へ」などで国際的に評価の高い鬼才・真利子哲也。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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