山形コミュニティ新聞WEB版

荒井幸博のシネマつれづれ

〈荒井幸博のシネマつれづれ〉宝島 9月19日(金)より全国公開

Share!

時代にあらがう若者たち

 終戦後の沖縄を舞台に、様々な不条理にあらがう若者たちの姿を描いて直木賞を受賞した真藤順丈の同名小説の映画化。

 町の英雄的存在の若者オン(永山瑛太)の強烈なリーダーシップのもと、幼なじみのグスク(妻夫木聡)、オンの恋人ヤマコ(広瀬すず)、オンの実弟レイ(窪田正孝)たちが米軍基地から食料や生活用品を奪い住民らに分け与え〝戦果アギヤー〟と呼ばれていた。

 だが、ある襲撃で〝思わぬ戦果〟を手にしたオンは、仲間にも告げず突然消息を絶ってしまう。

 月日は流れ、残されたグスクは刑事、ヤマコは教師、レイはヤクザになり、敬愛するオンの影を追いながらそれぞれの道を歩み始めるが、米軍に支配され、本土からも見捨てられた環境で3人の内に秘めた怒りは募るばかりだった。

 やがて、オンに持ち去られたものを米軍が追い始めたことをきっかけに、事態は思わぬ方向に進んでいく――。

 メガホンを取ったのは「るろうに剣心」シリーズの大友啓史監督で、企画構想から6年を費やしたとか。話のテンポが早く、3時間11分と長尺だが長さを感じない。

 特に、虐げられてきた沖縄の人たちの怒りが爆発して起きた約5000人の群衆による「コザ暴動」シーンは、延べ2000人のエキストラ一人ひとりの熱量とパワーがスクリーン一杯に伝わり、圧倒される。

 主演の妻夫木は、コザが舞台で2006年公開の「涙そうそう」に出演以来、沖縄には強い思い入れがあるという。それだけに大友監督とともに6月から全国キャラバンを行い、各地の試写会の舞台挨拶に立った。山形にも8月2日に訪れて熱い思いを伝えている。

 ヒロインを演じた広瀬すずは、東北芸工大理事長の根岸吉太郎監督「ゆきてかへらぬ」(公開2月)、土井裕泰監督「片思い世界」(同4月)、そして9月5日公開の石川慶監督「遠い山なみの光」と主演作が並び、女優としての成長と充実ぶりがうかがえる。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

記事閲覧ランキング

  • 24時間
  • 週間