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荒井幸博のシネマつれづれ

〈荒井幸博のシネマつれづれ〉吉沢亮が輝いている!

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〝美貌の苦悩〟を演技で克服

 6月6日に公開以来大ヒット上映中の「国宝」、7月4日公開され早くも話題の「ババンババンバンバンパイア」は、いずれも吉沢亮の主演。今、吉沢亮が熱い!

 「国宝」で吉沢が演じるのは、任侠(にんきょう)の一門に生まれながら15歳の時に抗争で父を亡くし、上方歌舞伎界の名門家に引き取られて芸に青春を捧げる喜久雄。

 聞けば、歌舞伎の稽古(けいこ)に吉沢がかけた期間は1年半だそうだが、「藤娘」「道成寺」「曽根崎心中」の演技は見事の一語。他の仕事と並行しながらわずかな期間で歌舞伎を〝自家薬籠中(じかやくろうちゅう)の物(もの)〟のようにしてしまう吉沢の凄さには脱帽せざるを得ない。

 中でも、喜久雄が絶望して屋上で涙ながらに舞う場面は圧巻。3時間近くの長尺にもかかわらず観客を飽きさせないのは、吉沢の演技力に負うところが大きい。

 「ババンババンバンバンパイア」で吉沢が演じるのは、戦国時代から生き続ける450歳のバンパイアで、銭湯で働きながら究極の味わいである「18歳童貞の血」を求めている美しい青年・森蘭丸という役どころ。

 蘭丸が目をつけた李仁(板垣李光人)のかわいさに思わず「ズキュン!」と心の声を連発させるなど、吉沢の振り切った演技に笑わせられると同時に、「この端正な美しい顔でこれがやれるのは凄い」と感服。

 吉沢は前作「ぼくが生きてる、ふたつの世界」では、コーダを演じ日本映画批評家大賞で主演男優賞に輝いている。

 「国宝」の劇中、若き喜久雄が田中泯演じる人間国宝の老女形からその美しい顔に「役者になるんだったら邪魔も邪魔。そのお顔に自分が食われちまいますからね」と言われる場面がある。吉沢本人に言わせれば、これは10代から20代までの吉沢の苦悩そのものを表す言葉だったという。

 「ぼくが生きてる――」「国宝」「――バンパイア」を観れば、その苦悩を演技力を磨くことで克服していったことが一目瞭然だ。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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