〈荒井幸博のシネマつれづれ〉大きな玉ねぎの下で
誰もが懐かしい恋物語
大学4年の丈流(神尾楓珠)はDoubleというバーでアルバイトしながら学生生活を送っていた。Doubleは昼はカフェとして営業しており、看護師を目指す美優(桜田ひより)が働いていた。

顔を合わせることのない2人だったが、夜と昼の業務連絡「バイトノート」のやり取りをしているうちに互いに心を開くようになり、趣味や悩みまで綴るように。会ったことがないからこそ素直になれて互いに好意を抱くようになっていた。
ただ、実は2人は以前にニアミスしていた。とある居酒屋で偶然出会わせ、同じ店舗で働いていると知らないまま、就職や人生のことで口論になっていたのだった。
そうとは知らない2人は、共通して好きなアーティスト「A‐ri」のコンサートを一緒に鑑賞すべく武道館で初めて会おうとする。
一方、人気のラジオ番組ではパーソナリティ(江口洋介)が、顔を知らずに好きになった文通相手と、爆風スランプのコンサートが開催される日本武道館で初めて会う約束をしたという30年前のエピソードを語る。
交換日記で心を通わせ、惹(ひ)かれあった現代の男女が、互いの素性が分かった時にどんな反応をみせるのか?そしてラジオで紹介された平成初期の2人はその後どうなったのか?――。
昨年11月公開の黒木華主演「アイミタガイ」で見事な手腕を発揮した草野翔吾監督が、爆風スランプの同名ヒット曲にインスパイアされた中村航の原案ストーリーを髙橋泉の脚本で映画化した作品。ご存知のように、楽曲・映画のタイトルにある「大きな玉ねぎ」は、日本武道館の屋根の上の擬宝珠(ぎぼし)を指している。
SNSを通じてのコミュニケーションや情報取得が当たり前の時代に〝手紙〟〝交換日記〟〝ラジオ〟が恋愛の重要なアイテムとなっていることが嬉しい。
1970年以降に青春を過ごした人なら、どの年代の人にも理解でき、どこか懐かしみながら感動できる恋物語。

シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。