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荒井幸博のシネマつれづれ

〈荒井幸博のシネマつれづれ〉海の沈黙

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倉本總脚本、渾身の物語

 「前略おふくろ様」「北の国から」など数々の名作ドラマを手がけてきた巨匠・倉本聰(89)が長年あたためていた物語の映画化。

 世界的な画家・田村修三(石坂浩二)の展覧会で、作品のひとつが贋作(がんさく)だと判明する。連日、事件の報道が加熱する中、北海道で全身に刺青の入った女の死体が発見される。2つの事件をつなぐ存在として、かつて画壇から追放され姿を消した天才画家・津山竜次(本木雅弘)の名前が浮上する。

 田村の妻・安奈(小泉今日子)はかつて竜次の恋人だったが、追放によって2人の仲は引き裂かれたのだった。杏奈は竜次がいるという北海道に向かう。2人は30数年ぶりに小樽で再会を果たすのだったが――。

 倉本が脚本を担当した作品の映画化は1988年公開の「海へ ~See you~」以来36年ぶり。本作を着想したのは、鎌倉時代のものとして国の重要文化財に指定された陶器が昭和の作品で偽物と判明し、重要文化財の指定から取り下げられた60年の「永仁の壺(つぼ)事件」がきっかけとか。

 「昨日まで美しいと言われていた作品が一気に価値を失う。美というものに対する疑問が湧き、どうしても書いておきたかった」と語っている。監督は「沈まぬ太陽」「Fukushima 50」などの若松節朗で、倉本のたっての希望でメガホンを取ったという。

 本木、小泉、石坂のほか中井貴一、仲村トオル、清水美砂、萩原聖人、村田雄浩らベテラン勢が豪華に顔をそろえる。

 本木と小泉は82年レコードデビューの同期でともに58歳。共演は92年のテレビドラマ「あなただけ見えない」以来32年ぶりの共演。それは竜次と杏奈を隔てた年数にも重なるという配役の妙。

 現在、東京都美術館で「田中一村展」が開催されている。77年に没した田中は幼少期から神童とうたわれたが、生前は評価されず、死後に再評価された日本画家として知られる。

 田中と本木演じる竜次を重ねる人は多いだろう。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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