〈荒井幸博のシネマつれづれ〉旅の終わりのたからもの
父と娘、旅先での葛藤の先に
第二次大戦中のホロコースト(ナチスによるユダヤ人大量虐殺)を生き抜いた父と、ニューヨークで生まれ育った娘の2人が父の故郷のポーランドを旅する感動のロードムービー。

1991年、ジャーナリストとして成功したルーシーは父エデクとポーランドのワルシャワを訪れる。この地は父と1年前に死んだ母の故郷。ホロコーストから逃れた父にとっては約50年ぶりの帰郷だった。
この旅でルーシーは自分のルーツを見つけたいと考えていたのだが、用意していた列車での旅をかたくなに拒んでタクシーに切り替えるなど、ルーシーが綿密に練った計画を父はことごとく覆(くつがえ)していく。
旅先での父との会話も、触れられたくない性的な話や別れた元夫の話などを容赦なく浴びせられてルーシーのイライラは募るばかり。アウシュビッツの強制収容所を訪れ、父の口から初めて恐ろしい記憶を聞かされても心の溝は埋まらない。
ついに堪忍袋(かんにんぶくろ)の緒が切れ、1人だけでニューヨークへ帰ると決めたルーシーを、父は思いがけない場所へと連れていくのだった。果たして、「旅の終わりのたからもの」とは――。
家族の歴史をたどる旅が時にユーモラスに、時に温かな眼差しで描かれる。その一方、映し出される荒涼としたポーランドの風景は、共産主義から民主国家に移行する過渡期で、失業率の高さや貧富の差、生活への不安を表しているかのよう。父エデクが50年前まで住んでいた家の住人の置かれた状況や態度が手に取るように伝わってくる。
エデク役のスティーヴン・フライのサンタクロースのような風貌とルーシー役のレナ・ダナムのまん丸の目、顔、身体にほのぼのとした親しみを感じる。
大きな展開はないが、丁寧につくられた作品。戦争の痛みを共有しないまま過ごしてきた父娘が、ともに歴史と向き合っていく。ちぐはぐな旅に笑って泣いて、静かな感動を覚える。

シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。