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荒井幸博のシネマつれづれ

〈荒井幸博のシネマつれづれ〉楓 12月19日(金) 全国公開

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名曲から胸打つ映画誕生

 ロックバンドのスピッツが1998年に発表して大ヒットした楽曲「楓(かえで)」を原案に、「世界の中心で、愛をさけぶ」の行定勲監督がメガホンを取ったラブストーリー。主演は福士蒼汰と福原遥。

 天体観測という共通の趣味を持つ須永恵(福士)と木下亜子(福原)は、高校時代に出会ってから約10年間、愛を育んできた。一見すると幸せそうに見える2人だが、本当の恵は1カ月前にニュージーランドで事故死しており、亜子と一緒にいるのは恵の双子の兄・涼(福士=2役)だった。亜子はそのことに気づいていない。

 亜子に本当のことが言えず、恵との2役を演じることに腐心する涼。幼なじみの梶野(宮沢氷魚)だけが真実を知り、涼を見守っているが、涼を慕う会社の後輩の日和(石井杏奈)、亜子の行きつけのバーの店長・雄介(宮近海斗)らは次第に違和感を抱き始める。

 やがて涼にとっても亜子が一番大切な存在になっていく。ただ、亜子にもまた、誰にも打ち明けられない秘密があるのだった――。

 スピッツの「楓」は数多くのアーティストにカバーされ、発表されて27年経った今も色あせない名曲だが、1曲の歌詞からこれほど物語が膨らむのかと驚かされる。

 行定監督は「この映画では喪失(そうしつ)から立ち直れない人々や、人間の美しさだけでなく、愚かさや身勝手さが露呈する恋愛の姿を描きたかった」とし、歌詞の「君」と「僕」を大胆に解釈した映画に仕上げた。「『世界の中心で』から20年後、スピッツの名曲にインスパイアされた再生の物語に携わるという巡り合わせに胸を熱くしている」と語る。

 福士蒼汰は見事に双子の兄弟を演じ分けた。亜子を演じた福原遥の純真で真っ直ぐなまなざしは、放っておけない想いにさせる不思議な魅力がある。

 観終わって、誰かを好きになることは素敵なことなのだと強く語りかけてくれる映画だ。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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