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荒井幸博のシネマつれづれ

〈荒井幸博のシネマつれづれ〉平場の月

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初恋相手とのめぐり逢い

 大人の男女の心の機微(きび)を繊細に描いて第32回山本周五郎賞を受賞した朝倉かすみの同名小説の映画化。監督は映画「花束みたいな恋をした」、ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」等を手がけた土井裕泰。

 妻と離婚し、郷里の埼玉県朝霞市に戻った青砥健将(堺雅人)は、印刷工場に再就職して毎日を平穏に暮らしていた。ある日、胃の検査で病院に行くと、売店のレジでは中学校時代に想いを寄せていた同級生、須藤葉子(井川遥)が働いていた。

 須藤は2年前に夫と死別し、現在はパートで生計を立てていた。様々な人生経験を重ね、互いに独り身となった2人は、中学卒業以来の空白の時間を埋めていき、次第に惹(ひ)かれあっていく。

 やがて互いの未来についても話すようになるのだったが――。

 最初に再会する場面で青砥が「須藤、俺、青砥!」と呼びかけると、「何だ、青砥か!」とぶっきら棒に返す須藤。このシーンで2人のキャラクターが推し量れる。

 主人公2人は50代半ばと思われるが、2人の口から語られるこれまでの経験は結婚、離婚、闘病、介護など、身近にありそうな世界観ばかり。当時はやった薬師丸ひろ子の楽曲も含め、年配の観客は「あるある感」を満喫することだろう。

 ユニクロやニトリなどを引き合いに出す生活感あふれる描写、年配者の恋を描きながら辛気臭くならない演出など、土井監督の手腕はさすがと思わせるものがある。

 堺は「DESTINY 鎌倉ものがたり」以来8年ぶりの映画主演だが、原作を1年半かけて読み込み、表情や言葉の細部まで青砥を演じ切っている。井川は結婚、出産で仕事をセーブしていたが、従来のしっとりしたイメージからはほど遠い須藤を見事に演じた。

 共演は大森南朋、塩見三省、成田凌、でんでん、椿鬼奴、中村ゆりなど豪華な顔ぶれ。主題歌は星野源「いきどまり」

 観終わって涙することでしょう。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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