〈荒井幸博のシネマつれづれ〉ナイトフラワー 11月28日(金) 全国公開
北川景子が新境地
トランスジェンダーの葛藤をテーマにした「ミッドナイトスワン」で2021年の日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した内田英治監督が、北川景子を主演に迎えて撮りあげたヒューマンドラマ。
借金取りに追われ、2人の子どもを抱えて東京に逃げてきた夏希(北川)は、昼はホテルの清掃員、夜はホステスと昼夜を問わずに働いても明日食べるものにさえ窮(きゅう)する生活を送っていた。ある日、夜の街で偶然ドラッグの密売現場に遭遇した夏希は、子どもたちのためにと自らも売人になることを決意する。

そんな夏希の前に現れたのは、心に深い孤独を抱える女性格闘家・多摩恵(森田望智)。彼女も格闘家としては食べていけず、心ならずもデリヘルの仕事をしていたのだった。
頼もしい多摩恵とタッグを組んだ夏希は、さらに危険な取引へと突き進んでいくが、ある女子大生の死をきっかけに2人の運命はあらぬ方向へと走り出す――。
内田監督が原案と脚本も手がけ、自らミッドナイトスワンに続く「真夜中シリーズ第2弾」と位置づける意欲作。現在の日本が抱える貧困や格差といった社会問題を背景に、幸せを求めて葛藤(かっとう)する人々の姿を描き出している。
美人女優の誉れ高い北川景子がほぼスッピンで髪を振り乱し、「子どもたちに未来を見せてやりたいねん!」などと関西弁でまくしたてる強烈キャラを見事に演じている。勤務先のスナックでカラオケを強要され、フラワーカンパニーズ「深夜高速」をガナるように唄うシーンは見もの。
Snow Manの佐久間大介、SUPER BEAVERの渋谷龍太、田中麗奈、光石研、池内博之なども好演しているが、特筆すべきは多摩恵を演じた森田望智。
凄絶な格闘シーンやトレーニングの様子は本物の格闘家と見紛(みまが)うほどで、昨年の朝の連続テレビ小説「虎に翼」で演じたヒロインの同級生役からの豹変(ひょうへん)ぶりに驚く。

シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。