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荒井幸博のシネマつれづれ

〈荒井幸博のシネマつれづれ〉おーい、応為

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北斎の娘は父を超えるか!?

 「冨嶽三十六景」で知られる江戸時代後期の浮世絵師・葛飾北斎の実の娘、お栄の人生を描いたヒューマンドラマ。主演は長澤まさみ、監督・脚本は「MOTHER マザー」「グッバイ・クルエル・ワールド」でメガホンを取った大森立嗣。

 お栄(長澤)はある絵師に嫁いだものの、家事をまったくせず、夫の絵を酷評したことから離縁され、父である北斎(永瀬正敏)のもとに出戻る。北斎の助手を務めるが、やはり家事には興味がなく、2人が暮らす貧乏長屋は散らかり放題。

 そんなお栄だったが、父の下で腕を磨き、美人画を描かせたら父をも凌駕する存在になっていく。ただ画才だけでなく気の強さも父譲りで、父娘喧嘩は絶えない。

 美人画の絵師で理解者でもある善次郎(髙橋海人)との友情、兄弟子の初五郎(大谷亮平)への淡い思い、愛犬のさくらとの暮らしの中でお栄の日常は過ぎていく。

 やがて北斎が何かと「おーい」と頼むことから「応為」という画号を授かり、一人の浮世絵師として時代を駆け抜けていくのだった――。

 大森監督は人間の奥行きを繊細に描くことで定評がある。長澤とのコンビは「マザー」以来5年ぶり。大森監督は長沢に「応為を演じるのではなく、長澤まさみそのものとしてそこにいて欲しい」と指示したとか。

 そのためか、歴史上の人物というより、勝ち気で口は悪いが自分の心には正直な一人の女性を長澤が自然体で演じきった印象だ。

 長澤は30年後のお栄も見事に演じている。2004年公開の「世界の中心で、愛をさけぶ」以来、日本映画界をけん引し続ける長澤だが、本作でもその実力ぶりを遺憾なく発揮している。

 永瀬、髙橋、大谷のほか、脇を固める寺島しのぶ、篠井英介、奥野瑛太らも好演している。

 北斎、応為、善次郎はいずれも実在の人物。それぞれの作品を背景に3人が映し出されているポスターにも注目したい。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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