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荒井幸博のシネマつれづれ

〈荒井幸博のシネマつれづれ〉木の上の軍隊 7月25日(金)全国公開

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終戦後も2年間息ひそめ

 終戦を知らないままに2年間も木の上で生活した2人の日本兵の実話をヒントに、故・井上ひさしが着想した同名舞台劇の映画版。

 太平洋戦争末期の1945年4月、沖縄本島北部の伊江島に米軍が侵攻し、激しい戦闘の末に住民のほぼ半数の1500人と、日本軍兵士2000人が犠牲になっていた。

 本土から派兵された少尉・山下一雄(堤真一)と沖縄出身の新兵・安慶名セイジュン(山田裕貴)は、敵に追い詰められて大きなガジュマルの木の上に身を潜める。

 米軍の圧倒的な戦力を目の当たりにした2人は、援軍が来るまでその場で様子をうかがうことに。戦闘経験豊富な山下と、島から出たことがない安慶名の会話はかみ合わないが、同じ木の上で飢えと恐怖に耐えながらの共同生活が始まる。

 戦争は2人が木の上に身を潜めた4ヵ月後には終わるのだが、彼らはそれを知るよしもない。「戦争は続いている」と信じ込み、ひたすら本土からの援軍を待ち続けるのだった――。

 舞台劇「木の上の軍隊」は、2人の日本兵の実話を新聞記事で知った井上が1985年から構想を温めていた作品。2010年に井上が死去した後、井上が晩年に残した「ガジュマルの樹上で2人の日本兵が生き延びた」という2行のメモから蓬莱竜太が書きおろし、栗山民也演出で13年に初演された。

 こまつ座公演として16年と19年に再演されている。

 本作は沖縄出身の平一紘が監督・脚本を手がけ、全編沖縄ロケで完成させた。堤が帝国日本軍を象徴する上官を、山田が戦争を知らない純朴な新兵を好演している。舞台劇で上官を演じた山西惇が顔を出しているところにも注目。

 沖縄が本土防衛の捨て石とされたという見方が多いが、伊江島の悲劇は「沖縄戦の縮図」と言われている。戦後80年、戦争、差別、平和、人間の生命力について改めて考えさせられると同時に、普通の暮らしが出来ることの幸せを痛感する。待がいやが上にも高まる。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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