山形コミュニティ新聞WEB版

荒井幸博のシネマつれづれ

〈荒井幸博のシネマつれづれ〉この夏の星を見る

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コロナ禍、天体観測の青春

 直木賞受賞作家である辻村深月の同名小説の映画版。2020年、新型コロナウイルスの感染拡大で様々な行動に制限がかかる中、星をテーマに独力で青春を取り戻そうと奮闘する中高生たちの物語。

 亜紗(桜田ひより)は茨城県の県立高校の天文部に所属する2年生。子どものころから星や宇宙に興味を持っているが、コロナ禍で緊急事態宣言が発令され、思うように部活動ができない状況に悩んでいた。

 そんな閉塞感を吹き飛ばそうと、リモート会議を活用し、各地で同時に天体観測をする競技「スターキャッチコンテスト」の開催を企画する亜紗。星空を共通のテーマに据え、全国の若者がつながろうという遠大な企画だった。

 東京都の公立中学1年生の真宙(黒川想矢)は、新入生27人のうち唯一の男子生徒。コロナ禍で好きなサッカーが出来ず、次第に不登校気味になっていた。

 長崎県五島列島には、家族が経営する旅館を手伝う高校3年生の円華(中野有紗)がいた。吹奏楽部に所属していたが、コロナ禍によるコンクール中止や、旅館が東京からのお客を受け入れたことで、地域住民からいわれのないバッシングを受け苦しんでいた。

 それぞれに悩みを抱える茨城の亜紗、東京の真宙、長崎の円華が参加して始まった「スターキャッチコンテスト」は、やがて全国へと広がり、そしてある奇跡を起こすのだった――。

 監督はショートフィルム「ワンナイトのあとに」などで話題を集めた山元環で、本作が初の長編商業映画になる。

 一見すると何のつながりもない茨城、東京、長崎の中高生が、同じ星空を見上げて一つになる様子が織物のように紡がれていく。コロナ禍で青春の大切な大会やイベントを奪われた若者は多かったはずだが、そんな逆境にめげない青春群像に拍手を送りたい。

 本作は7月4日公開だが、東北での上映予定はTOHOシネマズ仙台だけというのは残念だ。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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