〈荒井幸博のシネマつれづれ〉ルノワール 6月20日(金)全国公開
大人の事情に思い悩む少女
初の長編監督作「PLAN75」が国内外で高い評価を得た早川千絵監督が、再びオリジナル脚本でメガホンを取った長編監督第2作。11歳の少女が大人の世界をのぞき、人々の心の痛みに触れていくひと夏の経験が描かれる。

バブル期の1987年。両親と3人で郊外の家に暮らしているフキ(鈴木唯)は豊かな感受性を持ち、時おりのぞき見る大人の世界は滑稽(こっけい)で刺激的だった。
がんで入院した父(リリー・フランキー)は、仕事への未練、生への執着から独善的行動を起こす。母(石田ひかり)は仕事に追われる毎日だったが、ある日、女性として新たな喜びが訪れる。
父と母の間には次第に埋めがたい溝ができていき、フキの日常もいやおうなく揺らいでいくのだった――。
主人公を演じる鈴木唯はオーディションで選ばれた。撮影時は11歳だったが、ふとした表情、仕草が自然そのもので、バラバラになりかけた家族をつなぎとめようとする健気な少女を見事に演じている。
早川監督によれば、映画を撮りたいと思い始めたのが11歳のころで、その時に抱えていた気持ちや感覚をいつか映画にしたいと思っていたとか。
タイトルは内容とは直接関係はないが、その時に好きだったのがルノワールの絵画で、この時代への郷愁がそうさせたとのこと。
共演は現在放送中のNHk朝の連続テレビ小説「あんぱん」で好評の中島歩と河合優実、坂東龍汰、宮下今日子、西原亜希ら。
78回カンヌ国際映画祭でコンペティション部門に日本映画で唯一、正式出品された本作。惜しくも受賞は逃したが、いくつかの海外メディアが最高賞(パルムドール)に推すなど好評を博した。
前作の「PLAN75」も第75回同画祭「ある視点」部門でカメラドール(新人監督賞)の次点に選ばれており、早川監督作品は同映画祭で2作連続で好評価を得たわけ。
第3作への期待がいやが上にも高まる。

シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。