セピア色の風景帖
《セピア色の風景帖》第190回 もと紀(山形市)
今から40年ほど前の学生時代、旧城南陸橋の下の桜町にたこ焼き店「もと紀」があった。
メニューにはたこ焼きのほか、焼きそば、うどん、そのほかたくさんの軽食があったように記憶している。まだ国鉄の時代の山形駅に近いこともあり、多くの学生が出入りしていた。

学生からの支持を集めた理由は、その味というより価格の安さにあった。他のたこ焼き店では1人前400円前後だったころでさえ、わずか150円だった。
しかも、量は少ないどころか、むしろ他店より多かった。そのため小遣いが少なく、当時あった喫茶店「明治パーラー」などに出入りできない学生にとっては格好のおやつ処であった。
店のおばちゃんも話好きで、人間味あふれる人だった。店内はそう広くはないものの、居合わせた年配の客が席を詰めて学生に場所を提供するなど、家庭的で活気のある空間だった。
長じるにつれ足を運ぶ機会は少なくなったが、近年のコロナ騒ぎ、物価高騰を経て店がどうなったか気になり、陸橋の下をのぞきにいった。
「もと紀」の看板はなくなっており、懐かしいたこ焼きの香りも消えていた。(F)
