〈荒井幸博のシネマつれづれ〉父と僕の終わらない歌 5月23日(金)全国公開
認知症でも諦めない夢
アルツハイマー型認知症を患うテッド・マクダーモットが2016年に80歳でCDデビューを果たし、イギリス史上最高齢の新人歌手になったという奇跡の実話を、横須賀を舞台に小泉徳宏監督が映画化した作品。寺尾聰と松坂桃李が親子を演じる。

かつて歌手を夢見たものの、オーディション日と妻の出産が重なり、生まれてくる息子のために夢を諦めた過去を持つ間宮哲太(寺尾)。横須賀で楽器店を営むかたわら、地元のステージで時おり歌を披露しては喝采を浴びていたが、そんな哲太にアルツハイマー型認知症が忍び寄る。
症状は悪化する一方だったが、歌を歌う時だけはいつもの哲太に戻るのだった。それに気づいた息子の雄太(松坂)は、朗々と歌う哲太の姿をスマホで撮影し、それをネットにアップする。すると瞬(またた)く間に拡散され、哲太の存在は広く知られるようになる。
評判は音楽業界にも届き、ついにCDデビューの話が舞い込む。遅れてやって来た哲太の夢は、妻の律子(松坂慶子)や雄太、地元の人たちみんなの夢となり、その実現に向かって走り出すのだった――。
寺尾はカレッジフォークグループ「ザ・サベージ」で音楽活動を始めてから60年。1981年には「ルビーの指環」でレコード大賞も受賞した。劇中で寺尾が唄うオールドナンバーの数々を聴いていると、まさに〝水を得た魚〟の感がある。
俳優としても「黒部の太陽」でデビューしてから57年という経歴の持ち主。5月18日で78歳になったが、この年でこれだけ唄えて芝居ができる寺尾には頭が下がる。
松坂桃李は、病気の父を前に不安に揺れながらも寄り添い続ける息子を好演。そしてチャーミングで大らかな律子役に松坂慶子はうってつけ。このほか佐藤栞里、ディーン・フジオカ、三宅裕司、石倉三郎、佐藤浩市という豪華な布陣が脇を固める。

シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。