〈荒井幸博のシネマつれづれ〉サブスタンス 5月16日(金)全国公開
狂気に走る元人気女優
「ゴースト/ニューヨークの幻」「素顔のままで」など1990年代にスター女優として活躍したデミ・ムーアが、若さと美しさに執着するあまり狂気にとらわれていく元人気女優を演じる異色のホラーエンタテインメント。

50歳の誕生日を迎えたエリザベス(ムーア)は容貌の衰えによって仕事が減っていくことに気を病み、若さと美しさがよみがえるという再生医療「サブスタンス」に手を染めてしまう。
禁断のクローン技術を使うやいなやエリザベスの背は破れ、中から若く美しい「スー」と名乗る〝自分〟が現れる。エリザベスの経験も兼ね備えたスーはたちまちスターへの階段を駆けあがっていくが、そこから狂気が始まっていく――。
再生医療に走るエリザベスを、全身整形に数千万円を費やしたと言われているムーアが演じるのだから面白い。62歳にしてオールヌードにも果敢に挑み、醜悪に変貌していくのも辞さない女優根性には頭が下がる。本作でムーアはキャリア初となるゴールデン・グローブ賞主演女優賞を受賞、アカデミー賞主演女優賞にもノミネートされた。
ゴールデン・グローブ賞の授賞式でムーアは「30年前、あるプロデューサーから『君はポップコーン女優だ』と言われました。ヒットする映画には出られても、演技が認められることはないと思い込んできました」「それが、この映画の脚本が私のところにやってきて、宇宙が私に『あなたはまだ終わっていない』と告げたのです」と語っている。
スーを演じたマーガレット・クアリーは「哀れなるものたち」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」などの話題作に出演しているが、本作でも熱演。
そしてデニス・クエイド演じる大物プロデューサー「ハーヴェイ」は、2017年に長期にわたる性暴力が発覚して逮捕された大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインを想定したものか。#Me Tooにもつながる作品。

シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。