<荒井幸博のシネマつれづれ> MOTHER マザー

2020年7月10日
家族のあり方を問う衝撃作

 2014年に実際に起きた“少年による祖父母殺害事件”に着想を得て、大森立嗣監督が港岳彦と共同脚本で映画化した衝撃作。ちなみに港は天童市の若松寺を舞台にした「空人」、最上町出身の岸善幸監督「あゝ、荒野」の脚本をそれぞれ手掛けた経歴の持ち主。

<荒井幸博のシネマつれづれ> MOTHER マザー

 男にだらしがなく、自堕落な生活を送るシングルマザーの秋子(長澤まさみ)は、7歳になる息子の周平(郡司翔)を学校に通わせず、自分の意のままに動くことを強いてきた。秋子がホストの遼(阿部サダヲ)を引っ張り込み、二人が企てた恐喝の片棒を担がされても、周平はその理不尽な要求に健気に応える。
 やがて17歳に成長した周平(奥平大兼)は、母親と遼の子である幼い妹のためにも、より献身する日々。度重なる借金で実家からも絶縁され、手を差し伸べる児童相談所職員(夏帆)の手も振り払った母子は社会から孤立し、荒んでいく。そして秋子と周平の歪んだ愛は凄惨な末路に向かうのだった――。

 周平役の奥平はオーディションで選ばれ、初演技ながら母からの歪んだ愛情を受けて育った少年役を見事に演じきった。
 鬼母と息子を中心とした実在の事件の映画化という点で、是枝裕和監督「誰も知らない」の柳楽優弥を彷彿させるが、奥平が演じる息子は、母親の精神的支配から逃げられないまま成長した少年という点で微妙な差がある。
 長澤は本作の秋子のようなネガティブな役を演じるのは珍しい。男優先でわが子をないがしろにする自分本位な生き様に怒りを覚えるが、逆にそれは彼女の見事な演技によるもの。
 「世界の中心で、愛を叫ぶ」「タッチ」などの純愛物でスターの座を獲得した長澤も、30歳前後から「50回目のファーストキス」「マスカレード・ホテル」「コンフィデンスマンJP」と役の奥行・幅を広げているようで嬉しい。

 本作は凄惨さがテーマではなく、社会の底辺に生きる家族のあり方を問いかけている。


<荒井幸博のシネマつれづれ> MOTHER マザー
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(木曜12時)を担当。