片桐製作所(上山市)

片桐製作所は精密冷間鍛造を得意とする自動車部品メーカーだ。ホンダ系一次部品メーカーと密に連携し、高品質な自動車部品を提供するという事業モデルである。
地域を代表する優良企業
高精度の小型ケーシング部品等を主力とし、ホンダの堅調な業績とも相まって、同社の売上高も40億円弱まで伸びている。技術的な独自性も高く、上場企業相当の優良中堅企業といえる。
精密冷間鍛造という領域は、全国的に見ても得意なメーカーが限られている。筆者がこれまで訪問した冷間鍛造メーカーと比較しても、長期的な視野と明確な理念を持つ素晴らしい企業である。
特殊な塑性加工技術を持つ同社の製造ノウハウは奥深い。国内の他の自動車部品会社が新規事業として参入しても、利益を計上することは難しいだろう。アジアの新興自動車系メーカーから見ると、時間を買うために提携をしたいと思う技術領域の一つと思われる。
イノベーションを続けてきた社歴
同社の歴史は創業者である現会長、片桐久吉氏のイノベーションの歴史であり、信念を持ち独自性の高い技術を開発してきた。それが現在の繁栄の基礎になっている。
米屋の次男だった久吉氏は旋盤を修行して創業。ダーナーというミシンの布押さえ部品を受注し、昭和30年からは独自特許によるダーナーを製造販売。昭和40年代にスピーカーのヨーク部品を受注して東北地区初の冷間鍛造メーカーになる。その後、自動車部品に参入して金型製作部門を確立、様々な製造技術を内部化・高度化していく。
金型製作部門を強化して現在は複雑な形状を塑性加工で実現する実力を備えるに至っている。重要保安部品周りも任されており、中期的な受注の基礎は出来ている。
東北地方の自動車部品産業には、親企業までの物流に悩みがある場合も見受けられるが、同社は小型で高付加価値の部品に注力しており、物流の負荷が相対的に小さい領域に特化している点も高く評価できる。
現在の産業立地を中期的に維持していく基盤を持っている企業と思われる。
環境変化への対応がカギ
同社の課題は、グローバルな事業環境の変化にいかに継続的に対応するかにある。
最近は、国内自動車市場ではコンパクトカーのウェートが高まるなど、コモディティ(日用品)化によるコスト低減圧力が増しつつある。
今後は、トヨタ系列などがさらに海外販売・生産比率を高め、政治的にアジアにおける地域調達と技術移転を進める戦略を採る可能性もある。また、日本企業を買収するなどして製造技術力を高めようとするアジア企業が出てくると市場環境は変化するだろう。
長期的にはグローバルな事業戦略を見極める必要があるものの、当面、同社の戦略的な優先事項は、短期的には徹底的なコストダウン、中期的には高付加価値製品比率の向上と思われる。
同社は、シュトラックスという自社ブランドの超精密研削用工具を外販しているが、これは同社の製造ノウハウを込めた期待の高付加価値商品だ。現在は、用途開発を行い、市場を創造している段階である。市場創造の努力を続けつつ、より手離れのよい新商品を投入することで、さらにバランスのよい事業構造へと転じるだろう。
■株式会社片桐製作所
・社長 片桐鉄哉 氏
・所在地 上山市金谷字鼠谷地1453
・設立 1956年
・資本金 7000万円
・売上高 38億8千万円
・従業員 230人(06年6月)
・事業内容 精密冷間鍛造成形、高精度二次加工、超砥粒工具製造・販売