医学のうんちく/新規避妊薬の開発
射精後に液化する精液
そもそも精液は、射精後しばらくすると「液化」という現象が生じて粘度が低下します。その結果、精子が女性の生殖器の中を泳ぎやすくなり、卵子にたどり着くことができます。
この液化に関与しているのが前立腺特異抗原(PSA)で、セメノゲリンというゲル形成タンパク質を分解して精液の粘度を低下させます。

液化を阻害すれば
ということは、逆にPSAの作用を阻害すればセメノゲリンは分解されず、精液は厚いゲル状態に保たれ、精子はそのゲルの中に留まることになります。
こうした観点から米ワシントン州立大の研究チームは2020年、PSAの働きを阻害する非特異的セリンプロテアーゼ阻害剤(AEBSF)が、雌マウスの妊娠回数の減少に関与することを突き止めました。
AEBSFに注目
人間への応用を探るため、同大学が22年に健常な男性の精液を用いてAEBSFの影響を評価したところ、セメノゲリンの分解を防ぎ、精子運動性を低下させるという二重の避妊作用があることが分かりました。
さらに、PSA活性の阻害だけでセメノゲリン分解を妨害し、過粘性精液に寄与するかを判断するためにPSA抗体を用いました。その結果、PSA抗体は、精子の運動性に微妙な影響を与えるセメノゲリン分解を効果的に防ぐことが明らかになりました。
ホルモンに作用せず
避妊法としては、女性にはピル、基礎体温法、卵管結紮(けっさつ)、男性にはコンドームやパイプカットなどが一般的でした。
最近ではホルモンベースの男性避妊薬が開発されていますが、ホルモンへの作用を介さない新しい避妊薬の開発につながる可能性も出てきたといえそうです。


笹川 五十次
●(ささがわ・いそじ)1982年 富山医科薬科大学(現富山大学)医学部卒業、86年同大学大学院修了後、ハワイ州立大学医学部を経て、04年に山形徳洲会病院副院長、08年から現職。日本泌尿器科学会認定泌尿器科専門医、日本透析医学会認定透析専門医、日本腎臓学会認定腎臓専門医。