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<荒井幸博のシネマつれづれ> 「パコと魔法の絵本」

2008年9月26日
役所広司、刮目(かつもく)の演技

役所、95年から頭角

 役所広司は仲代達矢が主宰する「無名塾」出身で、80年代後半からドラマや映画での主演作が目立つようになるが、当時はいま一つの印象がぬぐえなかった。その後、無名塾を離れて「KAMIKAZETAXI」(1995年)で日系人タクシードライバーを演じ、毎日映画コンクール主演男優賞を受賞してから状況が大きく変わる。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 「パコと魔法の絵本」

2年間に映画賞を総ナメ

 翌96年に「SHALL WE ダンス?」「シャブ極道」「眠る男」「バウンス ko GALS」、97年には「うなぎ」「失楽園」「CURE」と秀作・話題作に次々と主演し、この2年間で20余りの映画賞を獲得する。
 
  「やくどころひろし」

 以降も社会派、サイコホラー、サスペンス、コメディ、時代劇と幅広い役を演じ、「役所広司」は「やくどころひろし」と読むのではないかと思ってしまう。近年はハリウッド作品にも進出するなど、出演作は観てみようと思わせるほど信頼度の高い俳優なのである。
 そんな信頼感が崩れそうになったのは公開中の「パコと魔法の絵本」の予告編を観た時だった。
 
予告編では失望

 画面は極彩色のアニメ風で、CGが随所に。そんな中で役所はハゲ頭に白いひげ面で怒鳴り散らしている。「こんなの役所広司じゃない」と目を覆いたくなった。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 「パコと魔法の絵本」

舞台は病院

 変わった患者ばかりが入院している病院が舞台。役所演じる大貫は一代で大会社を築いたが、心臓を患い入院。自信家でわがまま、他人に対する思いやりのかけらも持ち合わせていない嫌われ者で、自分に声をかけた患者仲間に「お前が私の名前を覚えているだけで腹が立つ」と怒鳴るような奴だった。
 そんな大貫の前に絵本を抱えた愛らしい少女パコが現れる。ベンチに腰掛けようとするパコに、席を譲ろうともせず突き飛ばしてしまう大貫。
 
パコとの心の交流

 そんな大貫が、あることをきっかけに劇的に変わる。パコが読んでいる絵本「ガマ王子対ザリガニ魔人」を病院の関係者全員で演じようと提案するのだが、これまで散々周囲に悪態をついてきた大貫にたやすく賛同する者はいなかった——。
 
笑い、怒り、そして涙

 はじめは原色を基調とした鮮やかな色彩、俳優たちの突き抜けた芝居に面食らうが、笑い、怒り、そして目頭が熱くなり、最後には大粒の涙が溢れ出す正統派の感動作だ。
  本編を観た今は私の不明を恥じ、いさぎよく役所広司に謝ろう。「やはりアナタは役所広司。アナタが出演する作品に間違いはありませんでした。大いに感動しました」と。
 
原作者は山形市出身!!

 原作者は山形市出身の劇作家で俳優の後藤ひろひと(39)。主人公の少女パコの名は後藤が小学生時代に出会った思い出深い犬の名が由来とか。山形市で行われた先日のトークショーでは、約30年前に山形市東原町でパコを飼っていた飼い主との対面を果たすという微笑ましい話題も提供してくれた。
 また山形の才能が一本の名作を生み出してくれた。嬉しく誇らしい。今後の活躍に期待したい。